「語り」のかたち−自発的な談話における話し言葉のすがた− 
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わかったこと


3.新情報は、主語の位置を避ける
 これまでの結果から、目的語などに比べ、主語には古い情報が圧倒的に来やすいということが分かりました。この差には、意味と情報の特徴が絡んでいます。意味を考えた場合、主語と呼ばれている部分は出来事の主人公です。場面展開に従って出来事を引き起こす主体なので、話の中で何度も登場してくる可能性が高いです。そういった主語が後から登場する時、古い情報として出てくるのは仕方がないことかもしれません。それからもう1つ、情報構造という観点から考えると、文の最初はメッセージのスタート地点です。そこからメッセージが始まるので、既に知っていることを元にして、そこに新情報を付け加えていく方が話し手にとっても負担が軽いし、聞き手にとってもメッセージの理解がスムーズだということです。それが実際に文の形で現れています。

 A farmer had a dog.

例えば、上のような例文が英語の文法書によく出てきます。他動詞構文で主語の位置も目的語の位置も、名詞を置くような例文です。しかし、これは実際の自発的な話し言葉では、ほとんど出て来ません。A farmerの部分は、あらかじめ話題になったものが来て、その後で新情報が目的語に来やすいのです。では、このA farmerはどこに出てくるかというと、次の文のようになります。

 There was a farmer (who) had a dog.

つまり、「農夫がいました」と最初に存在を言ってしまうのです。語るということはステージがあって、そこに登場人物をのせていくようなものかもしれません。こういった文を、ネイティブスピーカーは無意識にしゃべってしまうことがあります。これは何を表しているかというと、文の冒頭でいきなり新情報を出すのは唐突なので、メッセージの最初に場所(There)を提示しているのです。文の冒頭に場所を提示したのち、最初に登場する人物を動詞の後に持ってきて、さらに新しい情報を文末に持ってくるという方策をとっているのです。A farmer had a dog.という言い方よりは、唐突さが少ないのです。
 次の文も実際に私が聞いたネイティブスピーカーの発言です。

 I have a guy who came from Japan.

I have a guyを文字通り訳すと、「私は男の人を所有しています」となりますが、ここでは決して「所有している」という意味ではありません。この場合のIというのは、今、話をしている本人です。「今から話す内容は、私の身の回りで起きていることですよ」という、場所の提示に過ぎないのです。つまり、「私の側に1人の男の人が来ています、その人は日本から来た人です」という意味です。 A guy came from Japan.という言い方よりも、むしろ話し言葉ではこちらの方が普通です。聞く側としてもI have a guyと提示された方が解釈しやすいのです。いきなり文のスタート地点でA guy came・・・という言い方をすると、少し唐突な感じがするということです。
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