「語り」のかたち−自発的な談話における話し言葉のすがた− 
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わかったこと


4.語りは、自動詞と他動詞の違いを教えてくれる
 主語の位置に新情報を導入する頻度は低いですが、先ほどの表1で、自動詞か他動詞かによって、新情報が来る頻度に差があるというデータが出ていました。これは偶然なのでしょうか?まず自動詞と他動詞は何が違うかというと、先ほども言いましたが、簡単に言えば目的語をとるか、とらないのかということです。他動詞は出来事が起きた時、「誰々が○○を引き起こす」という関係になっています。 しかし自動詞は、そういう「○○を」に相当するものがなく、出来事が完結するような場合(例 誰々が来た)になります。ただ、自動詞と一口に言っても、その主語の位置に何が来るかということで、実は2つに分けることができるのです。

 ●人を新主語にとる動詞句
  appear,come,come along,come by,come up,
  happen by,pass,pass by,ride,ride by,walk by,
  be bumped,be a little bit away,be in the distance


 ●人以外を新主語にとる動詞句
  get blown off,blow off,come off,fall off,fly off,
  pass by

 
 この語りの中に出てきた自動詞を調べてみると、「登場する」(appear)、「来る」(come)、「通りかかる」(happen by)など、人を主語にとる動詞というのは、基本的に瞬間的な登場や消滅みたいなものしか表さないのです。例えば、「走った」「踊った」という出来事であれば、その主語はある程度主体性を持っていると解釈できます。しかし、語りで出てきたものの大半は、人やものがある場所から別の場所に移動したということに過ぎないのです。
 それから、人以外を主語としてとるものに「飛んで行く」(fly off)という動詞が語りの中で何回も使われています。これは「帽子が吹き飛んでしまう」という出来事を表していますが、この場合の主語というのは、画面の中にポッと出てきたもの、あるいは飛んでいってしまったものという、ある意味では目的語みたいなものになっているのです。

 He   kicked    a ball. (彼がボールを蹴った)
 主語            目的語

 「彼」⇒「ボール」
 蹴る、という出来事を引き起こすのが「主語」
 その出来事で影響を受ける(例 移動する、形が変わるなど)のが「目的語」

He kicked a ball.のballに相当するように、止まっている状態から動いた状態に変わっていくというものであって、動くというのは自分の意志で動いているというよりは、見ている人からすると画面の端から中央に来てまた出ていくという、そういう出来事を表しているに過ぎないのです。ですから、仮に主語の位置に新情報が出てくるとしても、意味的に考えると目的語のようなものが来ているのです。少し矛盾したような話になるかもしれませんが、自動詞の中には目的語みたいなものを主語の位置にとるものが現れるということです。
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