「語り」のかたち−自発的な談話における話し言葉のすがた− 
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わかったこと


 語りの中で初めて登場する人やものが、文のどの位置に現れるかという点に着目しましたが、その場合、同じ米語のネイティブスピーカーの間に類似する、際立った特徴があることが分かりました。

 1.初めて登場する人やもの(新情報)は、文の終わりに現れやすい
 2.一つの文の中に、新情報は一つが限度
 3.新情報は、主語の位置を避ける
 4.語りは、自動詞と他動詞の違いを教えてくれる

文という言い方をしていますが、メッセージとしての意味のまとまりをもっているものを1つの文単位として考えています。ピリオドが文の終わりという言い方をすると、一体いつになったら文が終わるのか、わからなくなってしまうところもあります。実情に照らし合わせて、文に対する定義を形だけでなく意味にも基いて行っています。

 それでは、語りの中で初めて登場する人やものの「かたち」には、どういう特徴があるのか詳しく説明したいと思います。

1.初めて登場する人やもの(新情報)は、文の終わりに現れやすい
 英語の文は、文法的には〔主語、動詞、目的語、前置詞句〕という配列になりますが、最初に人やものが現れやすい場所というのは、当然、主語です。では、主語にいつも新情報が来るかというと、実はほとんど来ません。 もし、文の中で初めて登場する人やものが現れるとするならば、文の終わりに近い目的語、それから場所を表す前置詞句の位置に現れやすいのです。
表1
 右の表1を見て下さい。20人のアメリカ人女性の語りを分析して集計した結果、文の中に新情報が現れた数はのべにして353になりました。そして、表の上の欄を見ると、他動詞文の最初の位置に新情報が現れる確率は、全体の1%程度となっています。つまり、ほとんど無いと考えていいと思います。しかし、同じ動詞でも自動詞とよばれているものがあります。自動詞というのは、目的語がなくても文が終わってしまう、つまり、「〇〇を」という言葉を必要としない出来事を表すのが自動詞です。表の2番目にAnd a man walked by with a goat. (男の人がヤギを連れて歩いて近づいてきた。)という文があります。この場合の、a man に相当するもの(新情報が自動詞主語の位置に現れたもの)がどれぐらいあったかというと、全体の中で13%程度です。同じ主語の位置でも、数にすると他動詞と自動詞で違いますが、この差がどれだけ大きいかということは後でお話ししたいと思います。ただ、上の2つ(主語の位置に現れたもの)とその下の2つ(目的語の位置に現れたもの)を比べると、現れる数に大きく差があるということが分かります。表の3番目のand he was picking pears,…(彼が梨を摘んでいた、・・・)という文のpearsは他動詞の目的語の位置です。この他動詞目的語の位置に新情報が現れる確率は、他のものと比べると非常に際立っています。その下の、場所や目的語で表しきれない人やもの(〇〇と一緒に、何時になど)という前置詞目的語の位置も比率的に非常に高いです。それから、文が途中で切れて、主語なのかそうでないのかが分からないようなものも時々あります。それは、「その他」として別に分けて考えています。つまり、文の前の方に出てくるのか後の方に出てくるのかという場所に着目すると、新情報というのは文末に現れやすいということです。
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