「語り」のかたち−自発的な談話における話し言葉のすがた− 
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映画の内容と被験者の反応


 では、これから映画を見ていただきます。この映画には言語は一切入っていません。言語を使ってしまうと、その言語圏の人だけに特徴的な語りが出てくるかもしれないからです。

(映画のあらすじ)
 ひげを生やした農夫が洋梨を収穫している。梯子を使って梨の木から降りては、エプロンに入れた梨を地面のかごへ入れていく。そこへ一匹の山羊を引っ張りながら男が通り過ぎる。その後、男の子が一人自転車でやって来る。農夫は収穫に夢中で、男の子に気づかない。すると男の子は、梨一杯のかごを荷台にのせて逃げてしまう。
 砂利道を進んでいくと、反対方向から女の子が自転車で近づいて来る。すれ違いざま、男の子の頭から帽子が飛んでいってしまう。帽子に気をとられていると、自転車が、道に転がっている岩にぶつかり横転する。そのはずみで梨が道に散乱する。
 ほこりを払い、立ち上がろうとすると、目の前に突如三人の少年が現れる。一人はパドル(卓球のラケットのようなもの)を持って、糸でつないだ球を打ち続けている。少年達は、散乱した梨と倒れた自転車を元通りにする。助けられた男の子は自転車を転がしていくが、三人の少年達は道に落ちている帽子を見つけ、口笛を吹いて彼を呼び止める。パドルを持った少年が男の子に近づき、帽子を渡してやる。男の子はお礼にと、少年に梨を三つ渡してその場を去る。少年達は梨を食べながら、男の子が自転車で通って来た道を歩いていく。
 ここで、画面に再び農夫が現れる。梨を抱えて木から降りて来ると、かごが一つない事に気づく。「なぜ?」と考えていると、三人の少年達がやって来る。三人は、いぶかしがる農夫の様子に目もくれず、梨を食べながらそのそばを通り過ぎていった。

 それではこの映画の内容をどのように語っているかという実際の語りを聞いていただきます。

(米語母語話者(大学生)による語り)
 Sure. There was a man picking...,u-m a Latin looking man,and he was picking pears,... in an apron...,that.. he had baskets... for. (中略) And a man walked by with a goat, and nothing happened and he kept on going,... and then a little boy,...about a bic a red bicycle,that was too big for him,...he stopped,.. took a pear,and then on second thought he decided... to take the entire basket...(略)  (※下線部分は初めて登場する人やもの)
 ([ストーリーを語るように促されて]いいわよ。 男の人がね、何か取っているの。中南米出身の人みたい。で、その人が梨を取っているの。エプロンに入れて・・・あとでかごに入れるための、ね。(中略)で、別の男が山羊を連れて歩いて近づいてきて。でも何も起きなくて、そのまま歩いて行って、そしたら今度は男の子が、自転、赤い自転車転がしながら、ちょっと大きすぎるんだけど、立ち止まって。で、一個梨を取っちゃったの。そしたら考え直して「やっぱりかごごと持ってっちゃえ」って・・・(略) )

実際には20人分の録音が文字化されて公開されています。人によって語る語数が違います。しかし、語っている内容や順序、どういうものが登場人物として登場するかということに大きな違いは見られません。
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