「語り」のかたち−自発的な談話における話し言葉のすがた− 
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何を材料にするか?


 では、今までのことを前提にした上で語りの様子を見ていきますが、何を材料にするかというと、言語ごとの比較がしやすいように映画を用意しました。約6分間の短い無声映画ですが、その映画をアメリカ人の大学生20人に見せて、直後にその内容について語ってもらうという実験を行なったのです。そして、その語りを録音して文字に起こし、その文字化された資料について、新しい情報、古い情報という観点から分析しました(この実験は、他の方がアメリカで行ったのですが、まだ誰も英語の分析をしていなかったので、私が分析しました)。例えば、「男の人がやって来た」と初めてその男の人に言及した場合、これを「新情報」と呼ぶことにします。言語のコミュニケーションは、基本的に相手の知らないことを伝えてあげることが大きな目的なので、何も知らない人に向って、ある物語を教えてあげるのであれば、初めて登場する人物というのは、当然これは新情報と考えていいと思います。その新情報の、例えば男の人がその後何かするとしたならば、男の人は「the man」または「he」といったかたちに変わりますが、それは古い情報と考えることができます。これが文の中でどのように出てくるのか、語る人によって個人差があるのか、それともみんな同じようなかたちで話をするのかということが一番の調査の目的です。それから、言語が違っていると話し方が全く違うのか、それとも言語が違っていても方向性は同じなのかという比較を行ない、さらには録音された音源を元にして、話し手の発音の特徴についても分析する、と。今日はちょっとそこまでいきませんが、文を発音する時、どの単語もみんな同じ強さでは発音しません。文のある部分が他の部分に比べると際立って聞こえる(ピークまたはプロミネンス)部分が、例えば新情報と対応しないかというものの見方もできます。今日はこれから映画を見ていただきますが、皆さんも頭の中でどういうことが起きたか思い浮かべて下さい。その後で、実際に語りを聞いていただきます。そして、その語りにどういう特徴があるのか考えていきたいと思います。
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