「語り」のかたち−自発的な談話における話し言葉のすがた− 
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どうやってかたちをみつけるか?


 先ほども言いましたが、出来事を言葉にする時というのは、「ある人がいた」「何かものがあった」ということに対して意識が向いていきます。例えば「昔々、あるところにおじいさんとおばあさんがいました」と人が物語を語った時、「おじいさん」と「おばあさん」という人物が語りという場に登場してきます。今度は、「おじいさんは○○へ行って、おばあさんは○○へ行きました」と意識に残った人物について、細かい出来事を話します。そして、また新しい展開になっていくのですが、そういう人やものが語りの中で初めて出てきた場合と、それからその後で繰り返して出てきた場合に、どういうかたちをとるかということに注目します。例えば英語で考えると、初めて登場する人やものは単数形の場合、男の人ならばa manとか自転車ならばa bicycleというかたちを使います。意識にのぼったばかりで頭の中でまだ準備が整っていないような、そういう状態を表すのがaという、いわゆる不定冠詞と呼ばれているものです。ところが、それが話の中で継続して使われる場合にどうなるかというと、aというかたちが今度はtheというかたちに置き換わります。ですから、「この人はtheというかたちを付けていますが、これは一旦話の中に出てきて、お互いが了解事項として持っているものですよ」ということを示す一種のサインなのです。このように、語りの中で出てきた人やものが、それが今度どこで出てくるか、そしてどういうかたちをとるのかを調査しました。文法的に言えば、品詞を語りの中でずっと追っていくわけです。その際に、「主語」や「目的語」といった言葉を使わざるをえません。これは言葉について考える時は、文法という事柄を考慮しないとその先に進まないからです。例えば英語に関して思い出していただくと、日本語とは語順が違います。主語というのは、普通は出来事の主人公ですから、何かを引き起こす立場が主語と呼ばれている位置に来ます。そして日本語も英語も、基本的には動詞の前に来ます。それに対して目的語はどうかというと、これは日本語と英語で違いますが、英語の場合は動詞の後に来ます。例えば「〇〇に会った」という日本語であっても、英語の場合は「会った、〇〇に」というふうに順が変わってしまいます。ただ主語と目的語はどっちが先かというと、これは日本語と英語どちらも同じで主語が先に来ます。それからその後に目的語が普通は来ます。これだけで入りきらない場合はどうするかというと、例えば場所を表す言葉や時間を表す言葉は、英語では文の終わりに来やすくなっています。
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