ビッグバン理論
前章のような考え方だと、現在の大きさに比べて過去はもう少し小さかった、更に前は更に小さかったというように過去へ過去へと遡っていくと、宇宙は1点に集まってしまうわけです。少なくともお互いの銀河同士がお互いに重なりあって、すべての銀河が1つの点に重なると考えざるを得ないわけです。ここで物理学原理主義という言葉を紹介しておきます。物理学にも原理主義がありまして、物理学者はそれが否定される根拠のない限りは、いかに異様でも極端まで考えます。したがってより過去へ戻っていった時に、途中でやめる理由がない限りはずっと極端まで考えて宇宙の始まり、つまり時間がゼロの1点から始まったと考えるわけです。1点から始まったということは、すべての点が同じ1点にあるので、現在は離れているすべての点が中心になっていると言えます。そして宇宙が1点から始まったと考えると、すべての物質が1点に集まっているので、密度がものすごく高いわけです。それから密度が高いということは、ぎゅっと詰まっているので、非常に温度の高い状態から出発したと考えられます。私たちの知っている物質、例えば人間の体は分子の塊、高分子でできています。この塊をよく見ると原子からできていて、原子をよく見ると、原子核と電子からできている。また、原子核は陽子と中性子からできているというように、いろいろな物質階層からできています。しかし非常に密度が高い状態なので、すべての物質階層が壊れてしまい、本当に原初的なものばかりの状態から出発したと考えざるを得ないわけです。このような高温度・高密度ですべての物質が壊れてしまっている状態から出発して、次第に私たちの知っている物質構造が作られてきたという考え方をビッグバン宇宙と言います。ビッグバンというのは大爆発理論と言います。爆弾が爆発した時に、非常に高温度・高密度状態で速い速さで膨張を開始することと、宇宙の始まりが非常に似ていて、高温度・高密度状態から非常に急速な膨張で宇宙が始まったと考える考え方です。
ビッグバン理論は次のような理論です。宇宙は非常に小さい世界から始まり、そして次第に膨張して、その過程で宇宙に存在するもろもろの物質、例えば素粒子、原子核、原子、人間、惑星、太陽系、銀河などの構造が生まれて現在まで至ったという考え方です。このビッグバン理論は宇宙論の正統派理論と考えられています。
そして宇宙進化のシナリオは詳しくは言いませんが、次のように描けます。宇宙が始まったのは10のマイナス44乗秒という、とても短い時間ですが、その時代に宇宙が生まれました。そして先ほど話した、非常にミクロな物質の時代、つまり素粒子の時代があり、原子核の反応が起こる時代があり、それからプラズマ状態といって、電荷を持つ粒子の状態があり、それから原子ができて、原子の塊である銀河が生まれて、そして様々な銀河宇宙の構造が生まれてきました。
実はビッグバン宇宙の中で非常に難問だと言われている問題が2つあります。1つは宇宙の創世です。宇宙はどのようにして始まったのかという問題です。これに関してはまだ答えは出ていません。私は答えは永遠に出ないのではないかと思っています。『創世記』によれば宇宙は無から始まったということになっています。要するに無から始まったと考えざるを得ないわけです。何か物があれば、必ずその物はどのようにして生まれたのかということになるわけです。したがって、何にも無いところから始めないといけないわけです。ホーキングの話もありますが、今日は時間がないので話しません。そしてもう1つが銀河の形成、銀河宇宙がどのようにして生まれたのかという問題です。銀河宇宙というのは現在私たちが観測している宇宙です。これに関してはある程度の理解が進んできました。