膨張宇宙
私たちは「すばる」望遠鏡という望遠鏡を使うことによって、より遠くの世界の姿を知ることができるようになりました。それまではより近いところしか写真で写せなかったので、空想するだけでした。しかし非常に遠くにある銀河も写せるようになったので、宇宙が時間的に進化してきたのではないかという考え方が具体的な姿で見えるようになりました。
そしてその進化を知るためには、もう1つ重要な発見がありました。それは膨張宇宙です。実は銀河1個1個に対して、その銀河までの距離と視線方向の速度、その銀河が私たちに近づいているか、遠ざかっているかというものですが、その2つを独立して観測できるようになりました。近づいているか、遠ざかっているかというのはドップラー効果を使って測ります。音のドップラー効果は有名ですね。サイレンを鳴らしながら近づいてくるとサイレンの音が高く聞こえて、遠ざかると、サイレンの音が低く聞こえるという現象です。光も同じで、光源が近づいてくると青い方にずれる、音で言えば高い方、光で言えば波長が短い方へずれます。そして遠ざかっていく光源からの光からは波長が長い方、つまり赤い方にずれます。それによって視線方向の速さを検出することができます。
銀河について、光を出す物体は実はガスです。ガスを温度の高い状態にしておくと、そこから光を出します。そしてガスの成分、炭素や酸素、水素など、どのような元素であるかによって、それぞれその元素ごとに指紋を持っています。そして炭素ならこの波長、水素ならこの波長、酸素ならこの波長というように、各イオンごとに決まった波長の光を強く出します。これを輝線と言って、波長ごとに光を分けて観測します。そして遠ざかっている天体からの光は赤い方にずれるので、どれだけずれたかを測れば、どれくらいの速さで遠ざかっているかを検出することができます。アンドロメダ銀河は私たちのごく近くにある銀河ですが、秒速200キロくらいで私たちに近づいてきていて、およそ30億年後にはアンドロメダと私たちの銀河はぶつかるのではないかと言われています。しかしこのような例外を除くと、ほとんどが私たちから遠ざかっています。
そして遠ざかる速さvが距離rに比例するという関係を導いたのがエドウィン・ハッブルです。遠ざかる速さが距離に比例するというのは、どのような場合に起こり得るのかと言うと、1つ簡単に考えられるのは、例えば運動場の真ん中に子どもたちが集まっていて、一斉に勝手な方向に走り出したとします。そうすると足の速い子ほど遠くに行き、足の遅い子ほど近くに行きます。これは遠ざかる距離は速さに比例しているということです。これは遠ざかる速さは距離に比例するということと同じことなので、私たちが宇宙の中心にいて、近くの銀河が私たちの場所から遠ざかっていけば、今のような観測結果が説明できるわけです。しかし私たちが宇宙の中心にいるというのは考えにくいので、どの銀河から見ても同じように飛び散っていくように見える仕掛けがあるに違いないというわけです。その仕掛けとは宇宙の膨張です。
しかし宇宙が膨張しているとは考えにくいので、次のように考えます。みなさん一人ひとりが銀河だとして、この宇宙空間の各点で止まっていると仮定します。そして床が動いて大きくなっていくとすると、誰から見ても隣の人と遠ざかっていくように見えます。そして更に縦・横・高さの比が一定になるように遠ざかっていきます。つまり隣1メートルの人が1秒間に1メートル、2メートルの人は1秒間に2メートル遠ざかるとします。すると常に比が一定になり、形は一定の格好を保ちます。すると誰から見てもみんなが遠ざかり、また同じ比で大きくなっています。そして床が大きくなっているということを宇宙空間が膨張していると考えます。つまり宇宙の空間点に各銀河は止まっていて、宇宙空間が膨張するためにお互いに遠ざかっていると考えるわけです。このように考えると遠ざかる速さが距離に比例するということが、宇宙空間のどの銀河から見ても同じような法則として成立します。そして宇宙空間が膨張しているために銀河がお互いに遠ざかっていると考えるわけです。