宇宙の構造
ハーシェルはある領域にある天の川の中の星の分布を懸命に調べて、星雲の図を描きました。現在の天文学者たちは1個1個銀河に望遠鏡を向けて1個1個距離を測っています。距離を測るといっても実際はドップラー効果を使って、どれくらいの速さで遠ざかっているかを調べています。全体で7000個ほど銀河があって、ハーシェルが描いた図には1700個ぐらいあり、銀河1個1個に望遠鏡を向けてドップラー効果を測っていくわけです。10年ほど前ですが、この仕事をするのに5年間かかったと言われています。現在はほぼ1年でできます。それくらい効率が良くなっていますが、それでも1700個です。
そしてこの銀河分布を上から見たような図から泡宇宙という言葉が作られました。銀河が存在している領域に丸く線を入れても、その領域の中にはほとんど銀河は見えないので、これを空洞と呼んでいます。銀河が見えるのはこの丸い膜の上に見えます。ちょうどシャボン液に息を吹きかけ泡立てて、その泡立った断面に見えるわけです。そしてその泡の膜の部分にあたるところに銀河が集中しているという、宇宙の泡構造が発見されました。これが15年ほど前です。一番大きい泡のサイズが大体1億光年くらいです。私たちからせいぜい5億光年くらいの距離内において泡がお互いにぶつかり合っているように見えます。無論この姿は宇宙のあらゆる方向にも共通しているでしょうから、宇宙は泡がぶつかり合っている姿で永遠に散らばっているというイメージが良いのではないかとなっています。そして1億光年ぐらいのスケールで泡構造を作っているということがわかってきました。実はまだこの泡構造の原因ははっきりとはわかっていません。自然のうちにできるという人もいますが、本当に自然のうちにできるのか、何かある作用があったのかもしれません。その1つのヒントとして、「泡」という字はさんずいへんに「包」と書きます。「包」も「己」が少し突き出ています。そしてこの「泡」の意味を考えると、さんずいへんは水です。そして「包」は赤ちゃんなのです。お腹に赤ちゃんを抱えた妊婦の姿の象形文字がこの「包」です。したがって、内部に激しいものを持っている姿を水で包んでいるものが泡だということです。実際、橋げたで水がぶつかったり、滝壷で水が落ちたり、海岸縁で波が落ちるところなどで泡が発生しています。つまりエネルギーが水の中に入った結果として泡が出るわけです。そして激しい作用があるところでこそ、泡が発生するのです。したがって、今発見されている宇宙の泡構造も何か激しい作用があったのではないかということが考えられるわけです。また、銀河がたくさん集まっている領域をグレートウォールと呼んでいます。グレートウォールオブチャイナが万里の長城ですから、これは宇宙における万里の長城、要するに星が万里の長城のように非常に薄い壁状に集まって連なっているということです。大体この万里の長城は6億光年くらい続いています。長い距離に渡って銀河が非常に薄い壁状に連なっている領域が存在して、そのような領域が何箇所も存在するらしいということもわかってきました。
現在、1990年頃の5倍くらい遠い領域までの銀河分布を調べようという研究が始まっています。まだ十分進んでいないので、どのような構造があるのか見えません。しかし始めの1990年代、1980年代から比べるとほぼ20倍遠くまで、つまり100億光年の領域まで広げて銀河分布を調べるということが進みつつあります。距離が100倍になると、観測するべき銀河の数は距離の3乗に比例するので、100万倍になります。それは体積が距離の3乗に比例するからです。今は非常に望遠鏡の性能も上がり、機械化されたので、1個の銀河の距離を測るのに15分もあれば測れるようになりました。ハッブルが1924年に測った頃は、1つの銀河までの距離を測るのに30時間かかりました。一晩に5時間くらいしか時間が無いので、夜になるとシャッターを開けてずっと5時間追いかけて、シャッターを閉じて、また次の日同じ方向に向けてシャッター開けて、ということを6日間繰り返しました。そして今は5分で撮れるようになりましたが、100万個はとても無理です。しかしいろいろな望遠鏡をうまく使って、効率的に銀河の姿、分布を調べようということが行われているので、2015年ぐらいには100億光年ぐらいまでの宇宙の構造が概ねわかってくるのではないかと思います。その中で本当に新しい構造が見つかるのかと言われると、わかりませんとしか答えようがありません。ということは宇宙の構造がどのようにしてできたかの本質的な理論がまだきちんとできていないわけです。その意味では、私は理論屋なのですが、理論の観点からもまだ不十分なままなわけです。したがって、今後銀河宇宙の姿がより鮮明になってくると思いますが、理論の方も頑張って、本当にこういう構造がこのような時間経過でできるということを証明できなければならないと考えています。私の話はこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。