天動説と地動説
そして本当の意味では科学的ではありませんが、もう少し観察に基づいて推測した宇宙論があります。それがアリストテレスの宇宙論です。アリストテレスは天動説を唱えました。地球が宇宙の中心にあり、太陽と月以外に5つの惑星が地球の周りを回っていて、遥か彼方の恒星天球がゆっくりと回っているという考え方です。アリストテレスの自然学の物質の根源は火、空気、水、土です。そしてその4つの元素を組み合わせて、すべてのものが出来上がっていると考えたわけです。始まりと終わりがあるものが直線運動で、それは地球の世界である。また、始まりがない、終わりもない、常に回っている運動を円運動とし、これは惑星の世界だという考え方です。他にも惑星世界はエーテルでできている、宇宙は有限であり、真空は存在しないということも言いました。このアリストテレスの宇宙論は2000年にわたって人々が信用したものですが、観察に基づいているのは事実です。
しかし観察によって得られた事実とそこで現実に働いている力を通じた真理は、実は違うものである、これはアリストテレスの自然学を考える上で非常に大事な観点です。例えばアリストテレスは、物体は外から力を加えなければ運動はしないと考えました。これは私たちの世界も当たり前だと考えられていますが、本当に摩擦のないところであれば、動き出している物体は止まらないわけです。もし摩擦を一切忘れて理想的な状況を考えたら、押さなくても動き続けます。もし外力を加えたら、動く速さが変わります。このように単に観察だけでいくと、摩擦があるので押さないと動きません。しかし本当の真理は、摩擦を取って考えたら、押さなくても一定の速さで動き続けます。その上で摩擦という効果を考えれば止まる現象が起きます。つまり摩擦は外力で止めようとする力です。力が働くからこそ、止まったり、速度の変化が起きるわけです。したがってここで言いたいのは、物事を観察することによってある事実が明らかになったとしても、その事実は真理であるかどうかはわからない、直ちに真理と見てしまうと危ないことになるというわけです。真理というのは、今の場合だと摩擦になりますが、余計なものが入ったために、違うように見えているのであるということです。例えば太陽が東から昇って、西に沈んでいくのも、見かけの姿は太陽が地球の周りを回っているように見えます。
しかしそれを否定したのが、コペルニクスの地動説です。コペルニクスの考え方は太陽が中心にあり、地球がその周りを回っていて、私たちはその回っている上にいるから、太陽が昇ったり、沈んだりしているように見えるという考え方です。このように仮定すると、金星がいつも太陽の近くにいるということが、見事に説明できます。金星は宵の明星や明けの明星と呼ばれて、太陽に寄り添って昇ったり沈んだりしています。これは金星が太陽のごく近くを回っていると理解すれば良いわけです。これは本当にコペルニクス的大転換です。このようなことは少し見るだけでは考えようがありません。しかし様々な運動を調べると、そのように解釈するのが自然であったので、地動説が出てきました。