2002年の6月に実際に私が見てきた『チャク』の様子をお話したいと思います。
標高4000メートルくらいの、ビクーニャ保護区である国立公園の中で、『チャク』と呼ばれるビクーニャの捕獲が行われました。この日は、学校の生徒たちが中心になって集まっていました。
ビクーニャをみんなで集めて、捕獲して毛を刈り、それを売ったお金は学校の備品などの購入に充てられます。1回で200万円くらいのお金が入ります。数年前から始まり、そのお金でコンピュータも買えるという状況です。これは、昔では考えられない事でした。アンデスの学校は本当にお金がなく、この変化は非常に大きいものがあります。
この捕獲の場合は、ネットがすでに張ってあり、「じょうご」のようになっています。だんだん狭くなっていく最後のところに、ビクーニャを追い込むというかたちです。インカ時代には石積みの落とし穴などを使っていましたが、現在は試行錯誤の末、魚網のようなナイロンのネットを使うようになったそうです。
追い込みの様子 |
毛刈りの様子 |
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このビクーニャの毛はとても貴重で、インカ時代には皇帝が指揮をとっていました。その時代はもっと大規模に、多くの人を使って、地方地方に場所を変えながらやっていました。 ビクーニャの毛は皇帝のものになり、王族や家来に与えることはできたのですが、一般の人が使う事はできませんでした。しかし、この追い込みによってビクーニャ以外の他の動物も捕まります。同じラクダ科の動物でグアナコという、もう少し大きい動物がいるのですが、グアナコの毛はビクーニャより少し質が落ち、これは庶民が使っていました。しかも、昔はたくさん捕まりました。
また、シカの場合は、雄は殺して肉を取るのですが、雌はそのまま放していました。しかし、立派な雄は種雄としてまた放していました。このインカの習慣自体が、野生動物を合理的に利用して、環境を保全するという非常にすばらしいシステムを持っていたのです。
その歴史が記録として残されていました。しかし、どうやるのかがわかりませんでした。その伝統は、今から四百数十年くらい前に途切れてしまっていたのです。それを何とか復活させたいということで、研究者が知恵を搾っていました。しかし、いろいろな社会的な状況もあり、なかなか実現はしませんでした。
これが実現したのは1990年代になってからです。今は電気バリカンで毛を刈っています。毛の長さが3センチくらいより長いものは刈り、それ以下のものは放します。3センチくらいないと繊維として使えないのです。だいたい2年間でそのくらいまで伸びるそうです。