死にゆく患者の心に聴くーターミナルケアと人間理解ー 
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死にゆく患者が望むもの

柏木先生
 「死にゆく患者の心に聴く」という題でお話をしておりますけれども、亡くなっていく患者さんが何を望まれるか、ということについて、少しお話したいと思います。自分もやがて、がんで死を迎えるかもわからないという話は先ほどしましたけれども、自分でなくても、自分の肉親や友人ががん患者になる確率というのはかなり高いんですね。そのときに、いったいどう対処したらいいかということについて参考になるかと思い、お話させていただきます。
 2500名の方々の看取りの中から、がんの末期の患者さんが望まれることを、非常に簡単にまとめますと2つです。一つは、痛みやその他の不快な症状をしっかりと取ってほしい、ということです。症状のコントロールということは、かなり専門的な話になりますので、今日はそのことについては触れません。二番目には、このつらい気持ち、やるせない気持ちを理解してほしい、わかってほしいということです。この希望も、一人の例外もなく持っておられます。
 最近「癒し」という言葉が非常に多く使われるようになりました。これは新しい現象なんですね。広辞苑などの辞典には、「癒す」はあっても「癒し」はないんです。そこで、新明解国語辞典で「癒す」という言葉を引いてみますと、二つの意味があります。一つは、「病気やけがを治すこと」と書いてある。これはわかりますよね。二番目に、「長い間手に入れたいと思って、なかなか手に入らなかったものが手に入ること」と書いてある。私、この定義をみたときに、ピンと来たんですね。それは、ホスピスに入ってこられた患者さんが、しばらくして回診のときに、「先生、ここへ来て癒されました」って言われる方が3、4人、立て続けにあったんです。ホスピスというのは、もともとの定義からすれば、癒されない人たちが来るんです。治らない人たちが来るのに、癒されましたというのは自己矛盾なんですね。だけど、この二番目の定義に当てはめると、これがよくわかるんです。今までなかなか手に入らなかったものが手に入った。それは何ですか?と聞くと、「気持ちがわかってもらえた」というんです。
 今までいろんな病院へ行きました。だけど、気持ちがわかってもらえなかった。ここへ来て初めて、じっくり話を聴いてもらえて、私の気持ちがわかってもらえました、癒されました、ということなんですね。だから、気持ちがわかってもらえるということは、とてもとても大切なことなんです。それゆえに、気持ちがわかるためには、いろんな工夫をしなければいけない。

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