映画を読むとはどういうことか 
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視覚的映像理解の難しさ

 映画の内容は確かにわかるが、難しいという場合があります。見るという行為はどうしても無意識になりがちです。見ること自体は誰にでもできることだからです。字幕があるとどうしても字幕に注意が向けられ、画面を無意識に見てしまいがちです。学んで覚えた文字の方にどうしても目が行くのです。私は授業で映画を見せるときには字幕を見ずに画面を見るようにと言います。
 ジム・ジャームッシュは映画学校を出て映画を作った人です。『ストレンジャー・ザン・パラダイス』(1984)が代表作で、モノクロです。最初の場面では、アメリカの親戚を頼ってハンガリーから来た少女が画面の中から消えてしまい、その後画面がブラックアウトになります。画面は非常に平たい感じです。これは、ワンシーン・ワンショットで、それを真っ暗な画面にすることでリズムを刻みながら進めているわけですが、詩的で洗練されて、ユーモアのあふれた映画です。
 学生に見せた時に、「何も起こらなくてつまらなかった」と酷評されましたが、劇的なことは何も起こらない映画の面白さを堪能することができます。非常にセンスあふれる新しい映画なのです。 1984年なのになぜモノクロなのかという疑問も起こるでしょう。モノクロとは情報が少ない画面であると考えられています。サイレントからトーキーに来たのが1つの発達であるように、カラーはモノクロよりも発達したものと思われるかもしれませんが、そういうものではありません。この作品はモノクロでなければならないのです。ジャームッシュは最近も『ザ・デッドマン』でモノクロを使っており、やはり成功しています。移動撮影も何もない映画ですが、映像でなければできない何をしているのかということを知ることが大事なのです。

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