がんに克つために 
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100歳まで生き、がんで死のう <日本の技術は世界一>

 目のがんの話からだんだんほかの方へ行ってしまいました。小児がんは有名で、例えばテレビドラマなどで小児のがんが主役になってよく出てきます。ところが、そういうところへ出てくるがんの患者さんは、小児に限らず大人のがんでも、ドラマのプロセスを見ていると全員が必ず死ぬのです。先程言ったように、ひどいがんを全部合わせても60%が、半分以上は治るという時代になったのです。私みたいに2回もがんをやってまだこんな勝手なことが言えるのは、おかげさまで生きているからです。そういう人が私の友達にもいっぱいいます。
 小児がんは有名なのにもかかわらず、全体から見ると非常に少ないのです。かわいそうだから有名なのです。これが10歳、20歳代になるともっと少なく、ほとんど0に近くなるのです。いろいろながんがあるのですが、この年齢でなければないという一番有名ながんがあります。それは骨のがん、骨肉腫といいます。骨が折れてしまうのです。小学生が運動会で倒れて、よく調べたらがんのところが折れていたということがあるでしょう。それは10代、20代に多いのです。だけど、全体から見ると10代、20代のがんは少ないのです。
 それが30代になりますと、ひゅっと上がるのです。この上がり方が激しい。これはどういうがんか。先程言いましたが、女性というのは早熟なのです。同じ幼稚園児でも女性の方がませたことを言うでしょう。女性は早熟だから、早めに老化ではなく大人になってしまうのです。だからがんができる。子宮がん、乳がんというものが30代でパラパラと出てくるのです。少ないですが。大腸がん、胃がんも、少しだけれども出てくるのです。
 これが40代になりますと、30代の倍まで急激に上がります。厚生省で、「40歳を超えたら年に1回検診を受けましょう」というのは、これが急に上がるからです。
 ところが、もっと大切なのはその後です。50代になると40代のまた倍ぐらいに上がり、60代になると50代のまた倍ぐらいに上がるのです。これはすごいでしょう。70代になりますと、60代のまた倍ぐらいにぐんぐん上がっていくのです。
 80代になりますと、70代の1.5倍ぐらい。90代になりますと、ちょっと下がるのです。不思議ですね。なぜかと思うでしょう。
 昔、1,000人ぐらいいる大きな講堂でこの話をしたのです。一番前に90代の人が3人並んでいました。皆さんに手を挙げていただいたところ、90代といったら大きな声で「はーい」と3人が手を挙げた。そしたら後ろの方が拍手喝采で、座っていられなくなってしまった。立ち上がって、私の方へお尻を向けておじきをしたのです。その90代の3人は忘れられないのですが、元気だからそういうところへ来られるので、元気でない人は来たくても来られないわけです。
 元気は元気なのだが、やはり耳が遠くなるのです。耳が遠くなると、ひそひそ話が大きな声になるのです。こんな距離ではなく、この5倍ぐらいある大講堂の壇上で、遠くの方に座っているのですが、私が「90代になるとちょっと下がる」と言った途端に3人がひそひそ話をしているのです。それが、「おいおい、おれたちはもう大丈夫だな」とどなっているのです。こういうのを短絡というのですが、大丈夫ではないのです。
 なぜ、70代から80代へは倍にならずに、ここで下がるのか。この辺で鈍化して下がるのはなぜか。いろいろな人がいろいろな答えを持っていますが、ほとんどみんな間違いです。だれか知っている人はいますか。
(会場の声・・・「他の病気で亡くなる人が多いからでしょう。」)
 そうです。真相は何か。今いみじくも名古屋の代表が言われましたが、人間は必ず死ぬでしょう。私は『100才まで生き がんで死のう』という本を書いたのですが、第1行目に「がん患者は必ず死ぬ」と書いたのです。そしたら若い先生が、病院長にこんなことを書かれては困りますと言うので、先を読んでみろよと。2~3行先には、「がん患者でない人も必ず死ぬ」と書いたのです。絶対に死なない人は絶対にいないのです。必ず死ぬのです。
 ただ、死ぬ場合には何で死ぬのがいいのか。えんま様に届け出て聞いてもらえるとしたら、何と書くか。同窓会あたりで居酒屋で酒を飲んでいるときなどには、よくそんな話が出るのです。そこで、「お前は何がいいのか」と言うと、一番多いのは飛行機事故。なぜだと言ったら、「ドーンと一瞬だから」と。そういうのは誤解なのです。そんなことはない。尾っぽが切れて飛んで、群馬県の山へぶつかった飛行機に乗っていた人の心を想像してごらんと言っても、それがわからないのです。だから、ドーンだと簡単に思う。そんなのはだめだよと言うと、「それなら心筋梗塞がいい」と。それもドーンと行けるし、脳溢血もドーンと。そのように挙げるのですが、それらはみんな周りの人に大変な迷惑をかけつつ死んでいく種類の病気なのです。
 ところが、がんは幸いなことにいつごろ死ぬかがわかるのです。こんなにいいことはないのです。「あと2カ月です」とか、「そろそろ来週ですよ」と。よほど親しい人でなければ来週とまでは言わないですが、かなりの親しさがあれば2カ月ぐらいまでは言うのです。ということは、大体のその後がわかれば人生の整理をすることもできます。
 私がそれを延々といくら言っても、症状がないので信じない患者さんが大阪にいました。その人は最後にやっと信じたのだろうなと思いますが、会社の社長をやっていたので、この部分は息子に、この部分は弟にと、「自分はいつ死んでもいいのですと、やることはやってしまったから大丈夫だ」と電話をかけてきました。でも、「痛くないけれどもあれは本当ですか」と。我々が見ていると2週間後には危ないなと思うので、そういう人に向かって、「この間あれだけ時間をかけて説明したでしょう、それがうそだということはないですよ」と言ったのです。やっぱりそうか。そういえば2~3日前から背中がちくちくとするのはがんのせいですかと。その人が2週間後に亡くなるのです。すなわち、がんで亡くなる人は苦しまないのです。老衰とほぼ同じプロセスです。たまに例外がありますが、ほとんど全部が苦しまないのです。
 そう言うと、そんなことを言ったってと必ず反論をするのです。「うちの親父が死ぬときはかわいそうで、がんでだけは死にたくないとおれはつくづく思ったものだ」と。それを「お前はがんで死ねと言うのか」と。同級生だから遠慮なく言うのです。そういう場合に、親父さんが亡くなったのはいつごろかと聞くと、必ず20年以上前のお話です。最近の20年ぐらいにわたっては、もがき苦しんで最期を遂げたがん患者はほとんどいないと言ってもいいぐらいです。
 だから、もしえんま様が書けと言ったら、皆さんはぜひがんと書いた方が得です。最期の花を飾ることができるし、言い残したいことはすべて言えるし、好きな人にさよならも言える。飛行機ではそうは行かないです。
 脳溢血とか心筋梗塞、肺炎など、ほかの病気は近ごろ減ってきたのです。だから、がんが増えてきたのです。したがって、90代で下がると言ったのは5年ぐらい前の話です。2年ぐらい前には、もう直線になってしまった。年とともに長生きすればがんになれると言った方が正しいわけなのです。
 昔私がまだ大学の学生だったころ、「婦人科の先生に診てもらいたい」と親戚が訪ねてきました。そこで教授にお願いをして診てもらったところ、これは初期の子宮がんだから治療をした方がいいといって、治療が終わったのです。終わったらその婦人科の先生が、「市川君、よかったね」と言うから、「何ですか」と言うと、「がんというものは一生のうちに1回しかならないのだ」と。「それがこの人は今終わってしまい、しかもそれが早期の早期で、ものすごく早期だからもう大丈夫、これは絶対に治ります。ということは今後一生がんのことは心配しないで暮らせる。こんなにいいことはない。よかったね」と言ったのです。今から思えば、それは大うそなのです。
 どうしてかというと、当時は最初になったがんで命を奪われてしまったから、死んではがんになれないのです。死んでしまうから、次のがんになれないのです。私は胃がんになったが、早期だったから生きている。だからその後に前立腺がんをやったが、まだ生きている。こういうことなので、最初の胃がんのときに見つからなければ、今ごろは前立腺がんになる前に死んでいるわけだから、一生に1つしかやれない。これは当たり前のことです。すなわち当時は、がんは治らない病気でした。
 今は、胃がんにかかった人の数は手術した人の数と同じではないが、それに近いのです。それと死亡した人の数には差があるのです。かかった人の数は毎年増えており、猛烈ではないがじりじり増えています。これは年とともに増えますが、みんなが長寿になっているから増えるのは当たり前です。だけど、死亡する人は猛烈に減ったのです。当時と比べたら3分の1以下に減り、猛烈な減り方です。
 それを早期に見つけられる技術を日本人が持っているから、それが日本中に普及してそうなったと、みんなが頑張ったと言えば正常です。ところがそうは言わないで、二言目には「アメリカでは」と言う。「冷蔵庫が普及したら胃がんが減った」と。なぜかというと、「塩漬けにしなくなったからだ」と。「魚に塩を漬けて日干しにしていたのを、冷蔵庫に生で取っておけるようになったら胃がんが減ったので、日本も冷蔵庫のおかげで胃がんが減った」と。冗談じゃない。おれと同じ胃がんにかかって助かった友達が何人もおり、あそこにもここにもいっぱいいるが、そういう人たちのことは計算しないのかと言いたくなるぐらいで、そういう人が増えたから死亡が減っているということです。だから、診断技術と治療技術が向上したことによって、がんになっても死なないという人が増えてきたこと、それが一番大きな理由なのです。
 ところが、何かというとすぐにアメリカだと。ある会社の社長が胃がんになりました。これならば日本では100%近くが助かってしまう。そう言っては何だが、信州の山奥の小さな病院でやっても治る。「これはどこへ行ったって大丈夫です。よかったですね」と言ったのです。
 そしたら、「一族郎党を連れてアメリカへ行きます」と言うから、「何をしに行くのですか」と聞くと、がんを治療しにと。ばかを言っちゃいけない。先程言ったように、日本では胃がんについては一番悪くて60%、一番よくて80%ぐらいは治っている。だけど、世界一だと言っているドイツが33%です。その次の、ヨーロッパで2番目だと言っているオランダが20何%です。それには負けていないといばっているイギリスが10何%です。アメリカ人はそのそばにいても、うちは何%と言えないぐらい低く、10%以下です。その世界において日本の60%とか80%というのは天文学的な数字で、彼らには信じられないような数字を日本では上げているのです。

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