今日進行しつつある行政改革は、「住民に身近な行政をできるだけ身近な公共団体において処理する」(総理府『地方分権推進計画』平成10)ことを一つの課題としており、その当然の帰結が様々な教育への規制の緩和と地方への分権なのである。その背景にはナショナル・ミニマム(国家的最低基準)を超える行政サービスは地方とその住民の選択・負担によるという考えがあるように見られる。
平成11年度に地方分権推進計画関連法案として一括上程され可決された教育改革法はこの原理に貫かれており、それ故に教育長の任命承認制の廃止、学級編制の弾力化などの一定の分権的立法措置を含み、他方「学校の自主性、自律性の確立」を唱えてそのための「校長の任用資格の見直し」「職員会議等学校運営組織のあり方」に加え、「父母や地域の方々のご意見を伺いながら学校を運営していくための新たな仕組みとしての学校評議員制度の導入」などの制度改正に至ったのである。(御手洗康政府委員答弁、参議院文教・科学委員会議録3,1998.9.24)
(2)学校評議員制の法的仕組みとその実際
@ 根拠法令 すでに、「法令上の位置づけを含めて検討することが必要」(中教審98年答申)であると指摘されていた。それに従って学校教育法施行規則(23条の3)に位置づけられ、これを受けて各教育委員会が定める学校管理規則に規定されることとなった。
ただし、私立学校の場合学校法人に必置の「評議員会」(私立学校法41条)とは異なる。
◆学校教育法施行規則(学校評議員の設置)
23条の3 | 小学校には、設置者の定めるところにより、学校評議員を置くことができる。 |
2 | 学校評議員は、校長の求めに応じ、学校運営に関し意見を述べることができる。 |
3 | 学校評議員は、当該小学校の職員以外の者で教育に関する理解及び識見を有する者のうちから、校長の推薦により、当該小学校の設置者が委嘱する。 |
(55条、65条、65条の10、73条の16及び77条により、中学校、高等学校、中等教育学校、障害児学校及び幼稚園に準用。) |
◆愛知県碧南市立学校管理規則(学校運営に関する意見聴取)
21条の3 | 学校に、校長の求めに応じ学校運営について意見を述べることができる者を置くことができる。 |
2 | 前項に規定する者は、所属職員以外の者で教育に関する理解及び識見を有するもののうちから、校長が推薦し、教育委員会が委嘱する。 |
A 法的性格
この点は、学校評議員の制度における父母住民の学校(運営)参加の程度を評価する上できわめて重要であり、後に外国の例と比較してみるときの重要な目印ということができる。立法過程では、次のように説明されていた。
◆「学校評議員は、校長の求めに応じて、教育活動の実施、学校と地域社会の連携の進め方など、校長の行う学校運営に関して、意見を述べ助言を行うもの」として、(=いいかえれば合議機関ではなく、ましてや議決機関でもない、川口註)「校長の学校運営権あるいは所属職員の監督権というものを前提といたいたしまして、それに対して意見を述べ助言を行う・・・、(従って)法律に基づいてこれを位置づけると言うことは必要ない」ものである(御手洗康政府委員答弁、参議院文教・科学委員会議録2,1999.3.9)。B 学校評議員の組織上の諸問題
学校評議員の制度は、先の管理規則例に見るように、決して画一ではなく、その趣旨実現の形態はそれぞれの地域あるいは学校により多様であるし、また学校管理規則ではそうあり得る仕組みとして位置づけられている(また必置ではなく任意である)。現に既存組織を活用して、この制度によらずその趣旨を実現する方途もありうるのである。(V(3)参照)しかしながら、新たにこれを創設するということになれば、▲委員数や任期、▲そのための予算措置、▲身分や選任方法、▲学校運営への意見反映法、▲その場合の学校運営には、学校の教育目標、その実現のための教育活動、等々どこまでを対象とするか、などの基本事項が少なくとも運営内規・細則などの形できめられている必要があろう。
◎ その実際について、都道府県教育長協議会(第1部会)が本年3月に発表した調査によれば、
◆委員数については5人ないし10人以内であり、少ないところでは2人という例が報告されている。(広島県の例、『日本教育新聞』2001.3.2)いずれにせよ、学校評議員の制度それ自体は試行的な段階にあって、その導入は13県に止まり、2001(平成13)年4月導入を検討していたのは8県、それ以降導入を検討が13県となっている。また自治体レベルでは回答のあった2485市町村のうち17%が実施しており、検討中が29%で、導入方針は半数に至っていなかった。(調査時点から1年を経た今日かなり実施に移されていると推察される。)また後に触る他の協議会等の既存組織との関係は不分明であるところから、その実体に即して問題点を指摘することはできない。しかし、この制度が「孤島」である学校(の運営)と実社会(家庭と地域)とを架橋するためのものであるなら、少なくとも学校教育に関わるものの学校運営上の位置とその能動的な役割が明らかにされている必要がある。この点を現行教育法制の原理を確かめつつ、また審議の資料を踏まえ考えてみよう。
◆その上位5位までの職業構成は順に、PTA関係者、会社役員等、会社員、自営業、公務員となっている。(なお、国会での審議過程でも「地域におきますさまざまな意見がバランスよく学校運営に反映されていく」ような人員・構成留意すべきことが指摘されていた。(御手洗康政府委員、参議院行財政改革・規制等に関する特別委員会議録7,1999.6.30))
◆予算措置については、1万円程度の報償費(鳥取県、同上『日本教育新聞』参照。)を計上した例が知られており、先の調査では評議員の報酬等は一回に旅費と日当支給あるいは一定額の報酬支給、または年報酬として支給するなどの例がある。