いろいろな人権 『ハンセン病と人権』 
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ハンセン病と人権

(10)愛知との関わり

愛知との関わり   こうして、二度と同じ過ちを繰り返さないための検証が進む中で、隔離政策と私たちが暮らす愛知との関わりについても歴史的真相を究明する作業が行われています。その結果、隔離政策を推し進めた「無らい県運動」の発祥地であるとして、また、戦前・戦後を通じてこの無らい県運動を強力に実施した地域であることが、入所者の手記「巡査が家に来て、早く療養所へ行くよう追い立てられた」や「白衣を着た衛生担当から隣家にまで執拗な消毒が行われ、そのため家族は転居を余儀なくされた」などから明らかになっています。一方で、隔離政策や断種を批判し周囲からいかなる圧力をかけられても自説を撤回することをせず、ハンセン病は不治ではないとして治療法を探求しつづけた小笠原登医師の出身地でもあります。当時、不治と決めつけ直す努力を怠っていた医学界において、小笠原医師の患者の立場にたった献身的な治療と「ハンセン病・三つの迷信」を発表した研究の業績は、現在になって評価されているのです。こうした、歴史を歩み、人物を生んだ愛知だからこそ、根強い偏見と差別の解消に向けて、人権教育・啓発には、全力で取り組むべきであると言えるのではないでしょうか。


(11)全国のハンセン病療養所

全国のハンセン病療養所   平成18年5月1日現在、全国に、国立・私立合わせて15か所のハンセン病療養所があり、3,100人の方が生活しています。そのうち、愛知県出身の方は127人です。入所している方々は、ハンセン病は既に治っているのですが、高齢であることや失明や手足の変形などの後遺症があること、さらに長期間社会から排除され隔離された生活を送ってきたことに加え、今なお社会に残る根強い偏見や差別意識などから、療養所から出て生活することが難しい状況にあるのです。







(12)人間回復に向けて

全国のハンセン病療養所   愛知県では、熊本地裁違憲国家賠償請求訴訟の判決以降、県議会においてこれまでの反省、名誉回復と社会復帰に全力で取り組むことを決議し、知事が岡山の療養所「長島愛生園」を訪ね、謝罪と納骨堂への献花を行っています。また、婦人団体と協力して療養所への訪問や、入所者による郷土訪問事業を展開し、また、シンポジウムの開催や「ハンセン病の記録」の編纂、パンフレットの配布を行う等、正しい知識・理解の普及に努めてきました。しかし、全国でも同様の事業が行われている下で一つの事件がおきました。2003年に熊本県内の温泉ホテルで、「ふるさと訪問里帰り事業」としての入所者の宿泊予約をホテル側が拒否する事件が起きたのです。そして、この報道を契機に、宿泊拒否を肯定し、入所者を誹謗中傷する電話や手紙が殺到したのです。これは、正しい知識と理解が十分に浸透していないことに起因し、隔離政策によって人為的に作られた病気への偏見が未だに根強く残していることを痛感させられた事件でした。また、本事件は営業停止の行政処分という毅然とした対応によって顕在化した例であり、表に現れない同様の事件は無数にあると想像できます。今後、これまで以上の差別解消に向けた取組みが求められているのです。それは、広く継続して、自分の問題として、交流や共感を通して、若い世代を中心に行われるべき問題なのです。


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