ことばの万国博覧会 ヨーロッパ館 
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フランス語−明晰ならざるものフランス語にあらず−  (講師:小柳公代)


小柳公代先生

小柳公代先生

 サブタイトルとして「明晰ならざるものフランス語にあらず」という標語を付けました。これはフランス語学習者には有名な言葉で、原語では“Ce qui n'est pas clair n'est pas francais.”と言います。英語では“What is not clear is not French.”と訳して間違いないと思います。つまりクリアでないものはフランス語ではない、フランス語は非常にクリアな言語だということです。“francais”を形容詞と解すれば「明晰でないものはフランス的とはいえない」とも読めます。これはリヴァロルという18世紀の人の「フランス語の普遍性について」という文書にある言葉です。
 今のヨーロッパの土地にはケルト民族が先住していたと言われています。それが紀元前58年、ローマ軍のカエサルがケルトの土地、今で言うガリアの土地に進軍してガリアを打ち破りローマ化していきます。そこの先住民であったケルト民族は、ローマから市民権を与えられることを求め、喜んでローマ皇帝に仕える役人になろうとしました。そのためにはラテン語使用が必要不可欠になってきます。人々は話し言葉としてラテン語を使うようになっていき、文字を持たないケルトの言語はあっという間に失われていきました。そのため、今のフランスというのは民族的にはケルトの血なのかもしれませんが、その言語はラテン語から来た言葉のひとつになっています。これは民衆が話す俗ラテン語ですから、学者が書いたりするラテン語よりずっと格が下のものとされてきました。
 16・17世紀になると聖書が各土地の俗語に訳されます。ルターがラテン語で書いてある聖書をドイツ語に訳し、フランスでもフランス語に訳されます。民衆が聖書を読めるようになるというのは画期的なことでした。俗語で書く大切さは、普通の人が読めるという点にあります。学者の言葉であるラテン語に逆らい、フランス語でだって物事をクリアに表現できるのだということを、リヴァロルの言葉は表しています。私たちも、私たちの言語である日本語を用いて、明晰に論理的に語る努力をしなくてはいけないという意味でも、この標語はとても大切だと私は思っています。


<数>
 ラテン語とラテン語からそれぞれ発展していった姉妹語のイタリア語、スペイン語、フランス語の数字の1から10を並べてみました。ラテン語と比べて非常によく似ているところからもこれらが兄弟であるというのはよく分かると思います。また英語のbe動詞にあたる動詞の変化もフランス語とラテン語とでほとんど同じです。そういったところからもフランス語がラテン語からきているというのは明らかです。
   ラテン語  イタリア語  スペイン語  フランス語
 unus  uno  uno  un (アン)
 duo  due  dos  deux (ドゥ)
 tres  tre  tres  trois (トゥロワ)
 quattuor  quattro  cuatro  quatre (カットゥル)
 quinque  cinque  cinco  cinq (サンク)
 sex  sei  seis  six (シス)
 septem  sette  siete  sept (セット)
 octo  otto  ocho  huit (ユイット)
 novem  nove  nueve  neuf (ヌフ)
10  decem  dieci  diez  dix (ディス)

11:onze(オンズ) 12:douze(ドゥーズ) 13:treize(トゥレーズ) 14:quatorze(カトーズ) 15:quinze(キャンズ) 16:seize(セーズ) 17=10+7:dix-sept(ディセット) 18=10+8:dix-huit(ディジュイット) 19=10+9:dix-neuf(ディズヌフ) 20:vingt(ヴァン) 21=20+1:vingt et un(ヴァンテアン) 22=20+2:vingt-deux(ヴァントゥドゥ)/30:trente(トゥラント)/40:quarante(カラント)/50:cinquante(サンカント)/60:soixante(スワサント)/70=60+10:soixante-dix(スワサントディス) 71=60+11:soixante et onze(スワサンテオンズ) 72=60+12:soixante-douze(スワサントドゥーズ)/80=4×20:quatre-vingts(カットルヴァン) 81=4×20+1:quatre-vingt-un(カットルヴァンアン)/90=80+10:quatre-vingt-dix(カットルヴァンディス)/100:cent(サン)/1000:mille(ミル)

 さらにフランス語の数字の11から1000まで(一部)も挙げてみました。11から16は独自の言い方ではありますが、例えば13の“treize”には“trois”という3の痕跡がみえます。17は10+7、18は10+8、19は10+9と表現します。20は“vingt”です。30、40、50、60も独自の言い方であると考えます。70はケルト民族の20進法の名残りで、60+10という言い方をします。それから80にはさらにはっきりと20進法が表れていて、4×20“quatre-vingts”と言います。


<基本的な言葉>
「おはようございます」 Bonjour (ボンジュール)
「こんにちは」 Bonjour (ボンジュール)
「こんばんは」 Bonsoir (ボンソワール)
「さようなら」 Au revoir (オ・ルヴォワール)
「ありがとう」 Merci (メルシ)
「すみません」「ごめんなさい」 Pardon (パルドン)
「はい」 Oui (ウイ)
「いいえ」 Non (ノン)

 「こんにちは」という言葉は、英語では午前と午後と夕方の3種類あります。フランス語の場合、朝から夕方になるまでは同じ単語で“Bonjour”、夕方になると“Bonsoir”です。この境目がなかなか難しく、明るい間が“Bonjour”というわけではないらしく、フランスに滞在した時には4時ぐらいになるとどんなに明るくても“Bonsoir”と言っていました。それから「さよなら」は“Au revoir”です。“revoir”というのは「再び会う」という意味ですので、「また今度会うときまでね」という意味になります。それから当然知っていなければならないのが「ありがとう」という表現です。どこの国に行ってもこの言葉はその土地の言葉で言いたいですね。「ありがとう」は“Merci”です。もう少し丁寧に言うと“Merci beaucoup”(メルシ・ボクゥ)です。礼儀としては、相手が女の人だったら“Merci beaucoup, Madame”(メルシ・ボクゥ、マダム)、男の人だったら“Merci beaucoup, Monsieur”(メルシ・ボクゥ、ムシゥ)というように、“Madame”と“Monsieur”をそえたほうがいいでしょう。軽い意味で「ごめんなさい」は“Pardon”です。それから「いや」と言えない日本人と言われていますので、「はい」と「いいえ」はきちんと知っておくべきかもしれません。これらが外国人である私たちにとって、フランス語の一番基本の言葉となるでしょう。
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