新選組とその時代 |
日本とアメリカ(1)
日本のアメリカ化は昭和20年から始まったと思われるかもしれませんが、実は幕末の頃から日本とアメリカはすごく深い繋がりがあります。新選組とは少し離れますが、これは肝心なことなのでお話します。
日本に一番最初に来て開国の要求をしたのは1853年(嘉永6年)で、ペリーが浦賀に来ました。ここから日本とアメリカの関係が始まります。外交の常識で最恵国というのがあります。これはどういう意味かというと、一番最初に条約を結んだ国に対して、二番目に条約を結んだ国はその権利を侵してはならないという、国際条約の鉄則があります。したがって、一番最初に条約を結んだアメリカはすごく優先権があります。これが日本とアメリカの交渉の始まりです。ところが実は1週間違いで、ロシアのプチャーチンという艦隊が日本に来ました。この1週間というのはプチャーチンは素直だから、たまたま来たら長崎に回れと言われて、そのまま長崎に回ったので1週間の差が出たということです。もしかしたらロシアが日本の最恵国になっていた可能性もあったわけです。そうするとそれ以降の歴史が全部変わってきます。ところがたまたまペリーが浦賀に来て、条約を先に結んだので、アメリカが日本の最恵国になりました。
ペリーは何のために日本に開国を迫ったのかというと、理由は2つあります。一つは当時アメリカと清が貿易をしていたので、その中継基地として日本の港が欲しかった。そしてもう一つは捕鯨が盛んで、捕鯨基地としても日本が欲しかったのです。ただし、この時も平和的に言ってきたわけではなくて、砲艦外交です。砲艦外交というのは当時欧米列強が、東洋の諸国に対して軍艦を持ってきて、開港せよ、貿易をせよ、しなければこちらから戦争するぞという言い方をしてくることです。しかし、これは貿易をしたいのではなくて、植民地にしてしまいたいというのが本音です。これはその当時の資本主義そのものが植民地経営によってのみ成り立つという原則があったからです。したがって、ヨーロッパ列強はアジアやアフリカの植民地の争奪戦を繰り返していました。日本も当然その対象になっていたという話です。その証拠に大砲を積んで軍艦で来ています。日本は震え上がりました。それまでは外国の脅威という概念がなく、話を聞けばどうもアジアはどこの国も大変なことになっている、植民地にされている、これは大変だということで、品川の御殿山を崩して、そこに大砲を据える陣地を作りました。それが東京湾のお台場です。幸いにしてそれが使われる機会はありませんでしたが、アメリカと条約を結びました。
ではなぜアメリカだったのかと考えてみると、一番近いヨーロッパと言ったら間違いなくロシアです。そのロシアが出遅れてなぜアメリカが太平洋を横断してきたのか、これには理由があります。この頃、ヨーロッパではクリミア戦争という大戦争が行われていました。これはロシア対イギリス・フランス連合軍の戦いでしたが、これにいろいろな応援の国たちがついてヨーロッパ大戦になりました。したがって、ヨーロッパ列強がそれどころではなかったわけです。ところが唯一アメリカだけがこのクリミア戦争には参加していませんでした。そしてアメリカはヨーロッパがクリミア戦争で忙殺されているのをこれ幸いに、どんどん開拓を進めていきます。
アメリカはご存知のとおり西へ西へと進んでいき、カリフォルニアまで到達したのが1848年です。そこで初めてアメリカ合衆国は大西洋から太平洋まで繋がり、太平洋に出ることが出来ました。しかも時期は独立戦争と南北戦争の間で、一瞬の平和の時代で、この時にペリー艦隊が太平洋に出てきて、しかもヨーロッパは出てこられなかったわけです。すごく歴史の運命を感じますね。その結果、アメリカは日本の最恵国になり、それから後の条約はアメリカとの条約を基本にして進んでいきました。
これには良い点、悪い点があります。良かった点はいわゆるイギリス流の植民地政策の犠牲にならなかったことです。イギリスが東洋の植民地を取るときの方法は一貫しておりまして、アヘンを使用します。インドは永らくイギリスの植民地であり、そこでアヘンを生産してどこかの国へ持っていき、アヘンと何かを交換する、するとその国はアヘンによって弱り、その国を侵略していくというパターンです。しかし日本の場合はアメリカとの一番最初の通商条約があったために、アヘンは全く持ち込めませんでした。このアメリカは不思議な国で、すごく正義な国です。その正義が間違っているか間違っていないかはともかく、正義を押し立ててくる国です。したがって、アメリカは麻薬を使った外交をしたことがありません。だから一番最初の条約に盛り込んだのだと思います。それでアメリカが一番日本と仲の良い国になって、アメリカサイドで日本の国が世界に紹介されて、アメリカと一緒にそれから後も仲良くやってきたというのが現実です。