新選組とその時代 
もどる  目次へ  すすむ  
侍のライフサイクル


 2004年にNHKの大河ドラマで「新選組!」が放送されていました。このドラマはよく出来ていましたが、少し登場人物が全体的に若い感じがしました。常識で考えれば実年齢に合わせてあるので、彼らのキャスティングも無理はないことになります。しかしここに歴史の落とし穴があります。実は人間は年々若くなっています。例えば30年くらい前は50、60歳代の人はすごくおじいさんに見えませんでしたか。これは平均寿命が多少は短かったということもありますが、一番大きな原因は社会的寿命が短かったということです。55歳定年、50歳定年という記憶がある方もいらっしゃると思います。社会的寿命がそれだけ短かったということは、社会で活動する時間は短かったので、その分ぎゅっと押し詰まって、みんなが老けていたということが言えます。したがって、現在70歳の方は昔考えていた70歳だと思ったら大きな間違いです。およそ×8で計算してください。70歳の方は7×8=56歳、30年前だったらそのぐらいの感覚だったと思います。
 ここで若い人のことを考えてみましょう。30歳の人が3×8=24歳で、20歳の人が2×8=16歳、このように考えると成人式で変な格好をして暴れたり茶化したりするというのは16歳ならやりかねないわけです。このように考えると今の社会の説明がつきます。この点で言うと、新選組の頃はみんなすごい大人だったわけです。したがって、今の同じ年のキャスティングをすると、子どもが大人の演技をしているような感じがしてしまいます。
 例えば昔、東宝の映画で「新選組」がありました。あの頃の三船敏郎さんは40歳を過ぎていましたが近藤勇はぴったり年がはまりました。他にも三國連太郎さんの芹沢鴨もぴったりでした。したがってこれから先、新選組のドラマをやるのであれば、40歳を過ぎた人に近藤勇をやらせるとちょうどいいのではないかと思います。ちなみに昔のお侍のライフサイクルは15歳で元服、成人式です。これで一端の大人になりますので、お父さんの仕事の見習いを始めます。昔は個人に役職がついているのではなくて、家に役職がついていました。余程のことがない限り、その地位は親子代々変わりません。そして約5年間見習いをして、20歳になるとお父さんの跡を継ぎ、お父さんは隠居します。そしてその前後に結婚もして、すぐに子どもを作ります。それから20年勤めます。20年勤めると子どもが20歳になります。自分が40歳になるから、そこで子どもにバトンタッチ、つまり40歳で定年というのがお侍さんの基本であったので、20歳は立派な大人です。40歳になって隠居したお父さんは何をするかといったら、遊ぶだけではなくて、昔のお侍さんはみんな基礎的な教養があるので、その教養を活かして他の勉強をするという人が大勢います。
 したがって、定年後からの学者が大勢いました。代表的な例が伊能忠敬です。伊能忠敬は家督を譲ってから算数の勉強を始めて、その結果としてあの大日本全図が出来上がりました。伊能忠敬の地図というのは、今の宇宙から衛星カメラで撮って合わせてみても寸分の狂いもないくらい正確にできた地図です。それを伊能忠敬は自分の算数と徒歩で、完全な日本全図を成し遂げました。これは若い人ではできません。40歳を過ぎると時間がたっぷりとあって、物事に腰を据えてじっくりやるという苦労が身についているからこそできた日本地図です。このように考えてみると、江戸時代は馬鹿になりません。明治維新から130年くらいしか経っていないのに、国が覆ってしまうような大戦争や大事件がいっぱいあって、大変なことばかりだった。ところが徳川時代は270年間も全くと言っていいくらい、天下泰平の時代が続きました。これだけの長期安定政権はまず世界に類を見ないです。したがって、いろいろと学ぶべきところはあります。  
もどる  目次へ  すすむ