ことばの万国博覧会−アジア館− 
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古代中国の文字


吉池孝一先生
吉池孝一先生
 中国とその周辺には様々な系統の言葉があって、現代中国には55種類ほどの少数民族言語があると言われています。それを見ていくのは大変なので紙幣を見ていきます。左下の写真は1999年に出た中国の紙幣ですが、この中に中国に関わる様々な情報があります。まず、今の中国に関わる部分で、上の方に「中国人民銀行」とありますが、この「銀」の字の金偏が変わっています。これは簡体字といって最近の中国で使われています。これくらいは想像つきますが、もっと簡単になったものは、「毛沢東」の「東」の字です。ここまでくるとちょっと想像がつかないくらいです。
紙幣(表)

紙幣(裏)
中国紙幣
 その下の写真は紙幣の裏側ですが、上にローマ字のようなものが書いてあります。それを拡大したものが下の写真です。ここで今の中国の状況が見えてきます。まず一番上に「ZHONG・・・」と書いてありますが、これはローマ字で「中国人民銀行」と書いてあります。そしてその下の左側はモンゴル文字のモンゴル語で「中国人民銀行20円」と書いてあります。更にその下はアラビア文字で書かれたウイグル語です。次に右側の2段目はチベット文字です。そして右側の一番下はローマ字で書かれたチワン語です。これは紙幣の裏側に桂林の漓江下り(りこうくだり)の絵が描いてありますが、ここが広西壮族自治区という少数民族の自治区で、その人たちの言葉です。このように中国語、いわゆる漢語以外に様々な言語と文字が中国にはあるということが、紙幣で見て取ることができます。これが現在の状況です。
甲骨文字
甲骨文字
 それでは本題の「‘中国’の文字の変遷」に移ります。まず、殷の時代の文字、殷代文字(BC1300頃)についてですが、右に甲骨文字の写真があります。今から3300年くらい前のものですが、約100年前に中国の安陽というところから出てきたものです。亀の甲羅の腹側に占った出来事を左右に書いてあります。これが漢字の源として下っていくわけです。次に戦国時代を紹介します。戦国時代は7つの国が覇権を争いますが、1つの同じ漢字が国によって違ってきます。今日はいろんな「安」の字を画像で紹介しましょう。どうでしょうか。ここの国とここの国は似ているけれども、どうもあっちの国とは違っている、などということになります。文字を通して文化のつながりが見えてくる場合もあって、なかなか面白い。こうして文字の字形とその使い方は、いろんな風に分かれたのですが、次の時代になって秦の始皇帝がそれを統一するわけです。漢字で面白いのはこの頃まででしょうか。次は漢字の影響でできたいろんな異形の文字を紹介しましょう。
 時代もずっと下りまして、唐の時代になりますと、なかなか面白い文字が出てきます。則天武后という女帝が、自分たちで文字を作ってしまいました。則天文字といいます。例えば、星は「○」となり、日は「乙を○で囲んだ文字」となり、月は「卍を○で囲んだ文字」となり、國は「圀」となります。後ろのほうは水戸光圀の圀ですね。則天文字の一部は日本まで伝わったわけです。全部で18字ありまして、これを使えと全国に命令したわけです。それで、これを使った碑文がたくさん残っておりまして、拓本などで見ることができます。楷書の中に則天文字が散りばめられておりますと、なにか異様な雰囲気で、一見してソレとわかります。
 さて、10、11、12世紀くらいになりますと、遼という国では契丹文字、西夏国では西夏文字、金という国では女真文字が作られました。これらは漢字を参考にして作られた文字です。西夏文字などは漢字に負けない風格があります。契丹文字の解読は端緒についたばかりですが、西夏文字と女真文字はおおかた読めるようになっております。
 駆け足でお話しましたが、私たちの研究室で作っているホームページに、鮮明な画像でいろんな文字を紹介してあります。もし関心がありましたら一度ご覧になってください。
古代文字資料館(http://www.aichi-pu.ac.jp/for/museum/)
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