引用のかたち−全ての言葉は潜在的に引用されている!− 
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著作権法上の「引用」


 まず、この公開講座の「引用のかたち」という題目をご覧になった時、もしかすると文章を書く時に何を引用するべきか、引用する時にはどういうかたちで引用するべきかというような、文章作法の話かなと思われた方もいるかもしれませんが、実はそういう話ではありません。しかし、法律的には引用をどのように示すべきかという話について、ここで少しだけ触れておきます。
 法律上「引用」という行為はある一定の範囲内で認められています。著作権法の「引用」について法律関係の本を見ると、必ずと言っていいほど取り上げられる事件に次のようなものがあります。
 事件そのものは昭和45年くらいに訴えがあった民事訴訟で、昭和55年の3月に最高裁判所で判決が出たものです。

写真

これは新聞でも取り上げられたので、もしかすると皆さまのご記憶にあるかもしれません。具体的に写真を載せてありますのでご覧下さい。 マッド・アマノという人物が、右の作品を自分の作品だといって公表したのです。一番上にタイヤがあって、少し見づらいかもしれませんが、その下に斜面をスキーで滑っている人が、シュプールを描きながら降りているというところを上手く写真に撮ったものです。そのシュプールの跡が上のタイヤの溝とよく似たかたちになっていて、2つの写真を組み合わせて1つの作品にしたというものであります。そして、スキーのもともとの写真を撮った人が、自分の写真を勝手に使われたということで民事訴訟を起こしました。そこで最高裁判所の判決として、他人の作品を利用する時には「前者が主、後者が従の関係」というものでなくてはいけないという原則があるということを述べたわけです。これは元の作品のものが従であって、自分で新たに作った部分が主でなければいけない、あくまでも他人のものを利用したところが比重の軽いところでなくてはいけないという原則だということです。その結果、この作品についてはほとんど全体が他人の作品のものであり、これを組み合わせてマッド・アマノ氏自身が作った部分は何も無いではないかということで、いけないという判断が下されました。このように、法律的には引用された部分が従の関係であって、それ以外の、自分で書いた部分が主でなくてはいけないという原則が認められているようです。この話は一番最後のところでまた出てきますので、ここでは枕としておきます。
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