発達と尊厳−心の健康−1 
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非行の背景にあるものを探る〜犯罪心理学の視点から

 ここでは、専門家は犯罪心理についてどのように分析しているのかを話したいと思います。
 犯罪の動機や心理は確かに簡単ではありません。その心の在り様がどうかという問題を見ていくと、心の中身自体をみていくのは大切ですが、ただ精神状態を見るわけではなく、子供が置かれている家庭環境でその子がどんな心境で過ごしていたか、その家族との関係で様々な想いを、例えば、14才の子供が非行を起こしたとしたら、その14年間どのような思いを抱きながら、親とどんなやりとりをしてきたか、また、もし兄弟がいれば、兄弟姉妹の間の葛藤というものがどのように、いつ頃から生じていたのかという家族と本人自身との葛藤や心の交流を幼い頃からずっとひもといていきます。それを家庭裁判所の調査官、あるいは少年鑑別所の心理技官といった人たちがその子供たちの成育史を追い求めていきます。さらに精神鑑定では、これに精神科の分析医が加わります。この精神科医は子供の場合は児童精神科医が担当することもあるし、あるいは犯罪心理に詳しい精神科の人が加わる場合もあります。さらに家族だけの問題ではなく、その子供が中高校生であれば、学校生活の中でどんな友達とのやりとりがあったのか、友達との間の中で激しい競争心はなかったのか。憎悪や友愛の感情がどの程度あったのか、さらにはその学校の先生との関係、あるいは学校生活そのものにきちんと適応できていたのか、あるいは苦痛に耐えながら毎日を送っていたのかということも非常に大きな問題になっていきます。さらに、家庭や学校を取り巻く社会の中で子供も大人も過ごしており、その社会生活の中で子供は、どのような影響を受けていたのか、そのことがいろいろな要因で関わってくるわけです。これらの家庭や学校、社会といったものが、その子供の心に対する外からの影響として子供の心に影響を与えます。
 さらに、心の問題自体を、内面から分析していくと、心の問題そのものが非常に大きかったり、心が病んでいたり、あるいは適応の仕方そのものに問題がある、ということも考えられます。一般的には、小学校高学年から中高校生あたりというのは、いわゆる思春期や青年期といわれる時代、いわゆる第2次成長の時期に入っていきますので、非常に気持ちが揺れ動きます。例えば、親の干渉や学校の先生からあれこれ言われるのがうっとうしい、ほっといてほしい、自分はもっと自立したいという思いもあるだろうし、一方でまだまだ甘えたい、依存したい、誰かを頼りにしたいという依存の気持ちもあります。あるいは、すぐ腹を立てたり、反発したりしたかと思えば、まだまだ甘えたいという思いもあります。この自立と依存、反発と甘えといったものの中には、物事がうまくいかない、自分の思ったようにうまくいかない、自分の気持ちを誰もわかってくれないといった様々な不満や怒りが非常に大きく渦巻いていきます。これらの様々な葛藤、心の揺れから、問題行動を起こした本人の心の問題を外側と内側の両方から探っていくわけです。(図2を参照)
 事件の1週間くらい前からその子がどんな心境で過ごしていたのか、ということも丹念に面接をしたり、場合によっては、言葉だけではうまく出てこない時には、いろいろな心理テストをしたりして、本人の心の揺れや反発、怒りといったものがどのように攻撃行動に転換していったのか、ということを見ていくわけです。(このように抽象的に話しても今ひとつピンとこないところもあるだろうと思いますので、とりわけ、家庭の問題、家族の問題、ここに焦点をあてて、詳しく見ていきたいと思います。)
 非行は家族関係だけで起きるわけではありません。しかし、この様々な要因の中で家族関係の要因というのは、大きな位置を占めていますので、その問題行動を起こす子ども達がどんな家庭の中で家族にどんな心境を抱きながら生活をしているのかという点の理解が重要でしょう。
(事例、略)
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