発達と尊厳−心の健康−1 
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少年事件に関するマスコミの報道姿勢

 このところ、いろいろな少年事件が起こっています。例えば、佐世保の小学生の事件も目新しいですが、最近のマスコミの定番のキーワードは「心の闇」です。少年少女たちの心の闇はどこまで深いのか、あるいは、その心の闇をどう解明していくのか、というマスコミ報道がすごく多いです。何故マスコミは「心の闇」と叫ぶのでしょうか。確かに事件を起こした子供の心境はわかりにくいので、そこを何とか見たいという思いなのでしょうが、私は、このマスコミの報道の姿勢そのものが「心の闇」を作り出している、あるいは「心の闇」を広げているという二次的な影響があるのではないかと考えています。つまり、マスコミは、何かいたずらに「子供たちはどんどんわからなくなっている、子供たちは本当に不気味な世界の中で、精神世界の中で生きている」というような不安を煽り立てているという懸念があります。マスコミの事件報道を見ますと、それはよくわかります。事件が起きると、まずマスコミは加害者の身辺をまわったりします。しかし、大抵の場合、大した情報を得ることはできません。結局そのようなマスコミの得ている情報だけでは非行少年たちの犯罪心理なり動機はわからないのです。だからマスコミは、自分たちが得ている情報だけではわからないので、それを「心の闇」という言葉で皆さんに提供して、なんだか大変なことになっていると、センセーショナルな反応を引き起こして終わってしまうのです。例えば、佐世保の事件もそうです。今はほとんど報道されていません。何故かというと、子供が少年鑑別所に入所し、精神鑑定の手続きに入り、結果が出るまで約2ヶ月かかります。その間、情報は外に出ないため、マスコミも新しい情報がでてこないし、もっと次におもしろい事件、あるいは新しい話題がないか、ということで、猫の目が変わるように、センセーショナリズムの一つの特徴として様々な話題に目を転じてしまっているのです。精神鑑定が行われた後、あるいは、少年審判が行われた後に、おそらく家裁の審判結果要旨が公表されます。それが公表されれば、少なくとも精神鑑定の内容であるとか、少年鑑別所の心理技官や裁判所の調査官がいろいろ分析した犯罪心理の内容が大まかでありますが、わかります。それは、精神鑑定後のさらに1ヶ月後くらいで、今から3ヶ月くらい先の話です。マスコミはおそらく3ヶ月後にも少しくらい報道するかもしれませんが、大きく報道はしません。私に言わせてもらえば、ほとんどネタがない今に大きく報道するよりも、いろいろな児童精神科医や犯罪心理の専門家、社会調査の専門家といった専門家の人たちが長い時間、何ヶ月もかかって分析をした結果がある程度でてから詳しく報道してくれた方がよほど為になります。しかし、実際は、何ヶ月後かにはマスコミの熱も冷め、みなさんの関心もどこかへ行ってしまい、ある程度わかってきた「心の闇」の中身が伝わらないまま終わってしまうのです。その点に私自身マスコミ報道の在り方に疑問を持っています。私の結論としては、マスコミ自身がわかってないから「心の闇」という言葉が使われているわけです。しかし専門家の間では、かなりの部分が解明されています。公表するかしないかはもう一つ別の判断が入りますので、どこまで公表するかといういろいろな問題がありますが、数ヶ月間かかってやっていけば、かなりの部分が見えてきます。
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