新大陸の古代王朝(2) インカの国家宗教と政治 
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神話と儀礼


 太陽神に関わるインカの始祖神話はいわば国家宗教の頂点ですが、その他の神々の信仰はどのようなものだったのでしょうか。太陽神の他に重要なのは、大地の神パチャカマック、その妻であり大地母神である冥界の神パチャママ、雷などの天候の神イリャパです。太陽と雨は、ともどもに農作物の生長を促しました。雷(イリャパ)は種をまく時期に重要で、轟(聴覚的イメージ)と光(視覚的イメージ)という二つの意味を持っています。神話では雷は投石機と棍棒を持った戦士として描かれ、彼の妹の水差しに石を投げ、それがあたると、雨が降ると信じられていました。月の神(ママキーヤ)は太陽の妻であり、暦と祭礼、労働に関係がありました。月蝕の時は蛇やアメリカ豹が月の女神を食べようとするので、人々は大きな音を立てて追い払わねばなりませんでした。多くの星や星座には名前がつけられていて、恐ろしい力を持った神々と考えられていました。金星や昴が重要で、種まきや牧畜と関連づけられていました。大地と海の女神、パチャママとママコチャは、農業と漁業に関するものであり、山の神は山岳地帯に住む人々の農耕や牧畜、生活のサイクルに密接に関係づけられていました。これらの神々が人々を保護し、養う代わりに、人々は儀礼によってこれらの神々を崇め、養うという互酬的関係が成り立っていました。
 儀礼において、特に重要であったのは死者儀礼です。近親者が亡くなると、人々は一定の期間、黒い喪服を身につけました。女は頭髪を切り、ショールで頭を覆いました。葬式の時には、参会した人すべてに、食物とチチャ(トウモロコシでできたアルコール飲料)が振舞われました。痛ましい音楽につれて、ゆるやかな踊りが続き、その後人々は死者の体と持ち物を葬りました。葬儀は約8日間続き、有力者の場合、追随者の殉死も見られました。喪に服す期間は一般的に貴族の場合一年、人民の場合二年でした。
 山岳地方においては遺体は埋葬でなく、洞などへの安置が通常でした。彼らは共同体の起源となる偉大な祖先達の死体をミイラ化し、生きている者のように扱いました。王族の場合、死者は豪華な衣服を着せられ、飲食をさせられ、性生活まで行わされました。インカ帝国の代々の王達は、死後も、自分の財産や土地を保つことができたので、後継者は財産や土地を受け継ぐことができず、他民族と戦争し、領土を奪い、拡張することによって自分の財産や土地を獲得せねばなりませんでした。一族の結婚や戦争などについては、祭司が死者である祖先の託宣を聴き、個人や共同体の将来を決定しました。  

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