脳は若返る 
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ストレスは脳細胞を死滅させる


 さてストレスは脳細胞を死滅させる、これは本当なのですね。例えば、かわいいお孫さんを失った方や、代々やってきた事業が倒産した方が急にボケたようになる。このようなことはよくありますよね。昔からストレスは脳に障害を与えるのではないかと言われてきました。私たちも嫌なことがあるとなかなかものが覚えられないような経験があると思います。これについて、最初はストレスになると心理的に脳が働かないからだと言われてきました。ところが、最近三次元のMRI、磁気共鳴装置というのができて、生きたまま脳のどの部分がどういう活動をしているか、どの部分が大きいか調べることができるようになったのです。
 私もやってもらったことがあるのですが、それを使って最初に調べたのがベトナムの帰還兵でトラウマで普通の生活ができない人です。例えば食事の最中に外をオートバイが大きな排気音を出して通ると、「あっ、敵が来た」と言ってテーブルの下に潜り込んで動けないのです。夜になると一人で寝られないのでお父さんが薄明かりにして傍で見守っているのです。そして寝た後も、夜中に雷なんかが鳴ると「敵が来た」とバットでガラスから鏡から全部壊してしまうのです。あまりおかしいので、やはりこれは強度のストレスが脳細胞を異常にしたのではないかと学者が考えました。それでコネチカット州イェール大学のブレムナー先生がこのような人たちを集めて脳を調べてみようということになりました。その結果、ベトナム戦争で戦場に3年ぐらいいると、海馬の細胞が死んで半分くらいになっているということが判明しました。つまり、私達は非常に強いストレスに遭うと脳細胞が死んでしまう。特に海馬の細胞が死んでしまうことが分かりました。だから先ほど言ったようにかわいいお孫さんが亡くなると急にボケたようになってしまうのはこの理由によるものなのです。
 そこで学者はなぜこんなことが起こるか研究しました。今うつ病の人が非常に多いですが、うつ病の人は絶え間なく物事をストレスに感じています。永い間うつ病になっていると脳細胞が非常に小さくなってしまいます。私たちがストレスに遭うと、ストレスのホルモン=コルチゾル(ステロイドホルモン)が出てきます。ステロイドというのは決して悪いものではなく、皆さんも喘息のときにステロイドのスプレーや湿疹のときにステロイド入りの軟膏を塗ると思います。コルチゾルの一番重要な役割は、血液の中のブドウ糖をたくさん増やすという役割です。ブドウ糖は自動車のガソリンのように私たちの身体を動かす一番の原動力です。ですから私たちが怖いものに会って逃げる、あるいは戦わなくてはならないといった時、身体の中のブドウ糖が多いということは非常に良いことなのです。ですからストレスの時にブドウ糖、コルチゾルが多くなるということは決して悪いことではないのですが、これが絶え間なく出過ぎると脳細胞に障害が起こります。ストレスがあまりに多いとコルチゾルが出っ放しになってしまうのです。
 さて、うつ病についてですが、今非常に増えています。うつ病はものの考え方の病なのですね。例えば一流大学に入学すればすばらしいが、だめなら自分の人生はない。あるいはここの会社に入れればいいけど、そうでなければおしまいだという中間のない考え方、これがうつ病の原因なのです。この考え方を変えない限り、薬を飲んでも治らない方が非常に多いです。ですから、ぜひ、ものの考え方を変える事によって、心を傷つけないようにして、脳をいつまでも若々しくすると言うことを覚えておいていただきたいと思います。
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