家庭教育啓発資料「父と子」 
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自分に責任を持て

 朝、目を覚ますと雪がちらついていました。「どうして早く起こしてくれなかったの」と、私は、母をなじりながら、電車に間に合うかなあと考えていました。
 いつもは自転車通学なのですが、道路が滑りやすいので、今日は電車で行くことに決めました。皆勤賞がかかっているんだからと、雪に足をとられながらも駅へ急ぎました。やっとのことで、駅に着いた時、無情にも電車は発車してしまったのです。
 私は、高校三年間無欠席を目指していました。だから、急いで家に帰ると、父が経営している自動車会社の車で学校に送ってもらおうと思い、早く出勤された社員の方に頼んでいました。すると、突然家から出てきた父が、「自分のしたことは自分で始末しろ」と、大声で怒鳴りました。あと一か月で達成できるのに、今日一回だけのことで駄目になると思うと情けなくて、なんて非情な父親だと腹が立ち、涙があふれてきました。
 しかし、ここでくじけるわけにはいきません。次の手として、近くのタクシー会社まで走り、「おばちゃん、すみませんが車を出してください」と頼みましたが、おばちゃんから「運転手さんは、昨日の夜遅かったからごめんね」と断られてしまいました。父の同業者ですから、事情は私にも多少分かるので、無理は言えませんでした。
 車の後を見ると、一台の自転車がありました。「おばちゃん、その自転車貸してください」「いいけど、気をつけて行くんだよ」学校までの十キロメートルの道のりを、路面の滑るのも忘れて自転車のペダルを踏みました。校門まで来ると、始業のチャイムが鳴っています。無我夢中で自転車置場に自転車を置き、教室に滑り込んだのは担任の先生と同時でした。
 その後は幸いにも病気をすることなく、三か年皆勤を達成することができましたが、怒鳴っている父の顔はしばらく頭から消えませんでした。今では、会社の部下に「自分のしたことは、自分で始末するように」と指導したり、子どもたちに「自分に責任を持ちなさい」などと言ったりしている自分を、あの時の父親の姿に重ねてみたりしています。
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