家庭教育啓発資料「父と子」 
もどる  目次へ  すすむ  





お父さんは庭師

 僕の父は、“山さん”と呼ばれる庭師です。植木の手入れや石組みなど造園の仕事、左官工事までも一人でやってのけます。「家を建てるのにお金がかかったので、庭にかける予算はあまりないんだけど、やってくれるかな」と頼まれても快く引き受け、「山さんの造った庭は、一味違うからうれしいよ」 「石一つ置くだけでもセンスがあるね」とほめられている父は、僕の誇りです。
 僕が小学生の頃、「本当は、お父さんも庭師になろうとは思っていなかったんだよ」と話をしてくれたことがあります。父は、大学を出てサラリーマンになるつもりで、京都で浪人生活を送っていました。お金がなくなるとアルバイトで庭師の仕事の手伝いをしていたのですが、だんだん京都の庭園の美しさにひかれていき、庭師の仕事にのめりこんでいったのだそうです。それで大学進学はやめて、外国の庭づくりの勉強をしたいと思い、アメリカにも行きました。「芝刈りいかがと、一軒ずつまわりながら、芝生の勉強をしたんだよ」と話す父は、輝いて見えました。だから、和風の庭でも洋風の庭でも、造ったり管理したりできるんです。  
 他のお父さんより時間の都合がつくから、僕の小学校のPTAの役員としてもがんばりました。PTAの仕事はもちろん、学校の植木の一本一本を、心を込めて手入れをしてくれました。PTAの後は町内の役員を引き受け、「山さん。山さん」と皆さんから慕われています。父の趣味は、仲間と一緒に行く山登りです。必ず僕を連れて行ってくれ、木の話、草花の話をしてくれます。だから、僕もいつの間にか植物や自然が好きになりました。
 夜、晩酌をしながら、「お前も庭師になるか」と聞いてきます。内心父のような庭師になりたいと思うのですが、高い木に登り、汗まみれになって働くのかと思うと、返事に困ってしまいます。そんなとき父は、「よく考えたらいいよ。でも怠けずに勉強だけはしておけよ」と、いつも同じ言葉を繰り返します。
もどる  目次へ  すすむ