家庭教育啓発資料「父と子」 
もどる  目次へ  すすむ  





第三章 父親となること

 親になるとはどういうことかを考えてみましょう。お母さんは、子どもが生まれる前からお母さんとしての気持ちが出てくるといいますが、お父さんはどうでしょう。
 最近ではお産に立ち会う男性も増えてきましたから、そういう人はわが子の姿を見たときからお父さんとしての自覚ができるかもしれません。しかし、一般には、子どもが生まれたからといって、急にお父さんらしい行動がとれるようになることは少ないと思われます。実際には、お風呂に入れたり、抱っこしたり、あやしてきげんをとったりすることで、父親になったことを実感していくのが現実ではないでしょうか。
 その後、お母さんは徐々に出産前の普段の生活に戻ることになります。この時期にお父さんは子育てにどのように関わったらよいのでしょうか。
 互いの仕事の状況を理解し合い、お母さんが忙しい時には、お父さんが子どもを寝かしつけたり、オムツの交換をしたり、ミルクを飲ませたりすることも必要でしょう。さらに、子どもが大きくなってはいはいをしたり、歩いたりするようになれば、体の動きや筋肉の働きをよくするためにも、一緒に遊んでやることが大切です。お父さんがお話をしたり、一緒に絵本を読んだりすることもよいでしょう。お父さんの中には、子育てを家族、とりわけお母さんに任せて、自分の生活リズムを変えないという人もいます。しかし、子育ては一方に押しつけたり、固定化したりするものではありません。二人が協力してこそ真の子育てができるのです。
 また、次の世代を育てることが大人の仕事であるという考え方に立てば、その最も大切な仕事が自分の子どもを育てることです。お父さん自身も、これまでに多くの人から学んできたはずです。子育ては大切な仕事だからこそ、お父さんにも積極的に関わってほしいのです。
 しかし、実際には、お父さんが子育てに深く関わることが難しいこともよく分かります。例えば、家と職場が離れていること、そのために通勤に時間を取られること、それに加えて労働時間が長いこと、単身赴任で家族が一緒に生活できないことなど、たくさんの理由をあげることができます。
 昔の子どもは、親が働いている姿を近くに見ながら遊んだり、普段の生活を送ったりしていたのですが、世の中が変わり、職場と家は別々のところにあるというのが、多くの人にとって普通の生活のしかたとなりました。このことは、子どもと職業との関係を弱めることになり、子ども自身が学校を出たあとの仕事を考えるときに影響をもたらすことが多多あります。なぜならば、もともと子どもが仕事を選ぶときには、親の影響を受けていることが多いからです。たとえ、子どもが両親の働く姿を見る機会はなくても、いつもどのような仕事をしているのかを話したり、仕事を通じた楽しい経験やつらい経験のあることを伝えたりすることが、子どもの発達にとって大切だと思います。
 仕事の話は、子どもに職業についての関心を持たせるために効果的です。なにしろ、子どもたちは、社会の仕組みをよく知っているわけではありませんから、仕事の話を通して社会の仕組みを教えることは、ずいぶん役に立つと思います。例えば、技術を身につけ、腕に磨きをかけたり、一人前になってお店を持ったりすることがどんなに大変なことか、でも、それは楽しみなことでもあるということ、あるいは、会社でこんな仕事をしているということなどを話してみてください。できれば、子どもに職場を見せることもよいのではないでしょうか。そうすれば、仕事から帰ってきた親がどんなに疲れているのか、あるいは、子どもは家にいる夏休みも、なぜ夜遅くまで帰ってこられないのかが分かってもらえると思います。
 しかし、子どもの中には、お父さんから話を聞こうとしても聞けない人もいます。お父さんが単身赴任中の場合には、電話で声を聞くことはできますが、直接顔を合わせることができないので、たまに家へ戻ってきたときに顔を合わせても、気持ちがしっくりこないことが多いかもしれません。あるお父さんが、思春期の娘さんとしばしば気まずい雰囲気になるとこぼしていました。どこの家でも思春期の娘さんとお父さんはうまくいかないことが多く、これを娘さんの当たり前の成長と受け止めれば、少しは気が楽になるのではないでしょうか。
 もちろんお父さんが単身赴任しているからといって、必ず問題を引き起こすわけではありません。あるお父さんは、自分がふだん家にいないことで、子どもに寂しい思いをさせているのではないか、家族がばらばらになっているのではないかと心配していました。ところが、たまたま娘がけがで入院したことをきっかけに、家族のみんなが交替で娘の世話や家の仕事をすることになり、家族にまとまりを感じるようになりました。それからは、家族が心を一つにすることの大切さが分かり、自分が家に帰る日には、子どもたちは予定を変えてでも自分と一緒に食事をするようになったと、うれしそうに話していました。
 また、思春期を迎える子どもにとっては、親との関わりがとても重要です。特にお父さんとの関係は、しっくりせず気まずい雰囲気になることもあるかも知れませんが、これを子どもの成長の一過程と受け止め、お父さんとしてどう関わるか模索することが、親として成長することにもなります。その基盤となるのは、信頼し合える親子、家族の関係です。
 信頼し合えるお父さんと子どもの関係を作る時に大切なのは、お父さん一人でよい関係を作ろうとしないことです。お母さんの協力が必要不可欠だということを忘れないでください。それは、家族みんなの仲がよいことが大切だということにもなるでしょう。
 ところで、最近は、お父さんのいない家庭も多くなってきました。そのような子どもたちは、お父さんから学ぶことを、だれから学んだらよいのでしょうか。その子どもや家庭のことをよく知っている男性がいれば、お父さんの代わりをやってくれるかも知れません。例えば、おじいさんや親戚のおじさん、あるいは、いつも買い物に行くお店のおじさんなどです。また、学校の先生もその一人になると思います。もちろん、お母さんがその役割を果たすことも十分可能です。
 お父さんを始め子どもを取り巻くすべての大人の力によってこそ、子どもは健やかに成長することができると思うのです。


もどる  目次へ  すすむ