地域で育てる
「お父さん、お父さん。学校だよりに山石さんが載ってるよ。この人、お父さんの同級生よね」
珍しく妻が学校の話を持ち出しました。学校だよりには、山石さんが今年度のPTA会長を引き受けたことが書かれていました。息子が中学校に入学して、まもなく一か月が過ぎようとしています。私は公務員で、転勤によって地元に戻ってきたところでした。恥ずかしい話ですが、地域活動に参加したことはほとんどありません。教育についても今までは関心がありませんでしたが、友人ががんばっていると思うと、なんとなく応援したくなりました。
たよりの中に、「おやじの会」という新しい組織の立ち上げの様子が紹介してあり、早速出かけてみることにしました。山石さんとは、ちょうど五年前の同窓会以来の再会でした。この会は、「地域の子どもは、地域で育てる」をスローガンに、父親も活動を楽しもうと呼びかけているボランティア組織でした。そこでは、教育をテーマにいろいろな話し合いも行われていました。私にとってこの 「おやじの会」への参加は、残念ながら、子どもの教育は母親任せであったということを、はっきりと知る結果になったのです。
また、この会は警察と連携して、地域巡回活動に参加することになりました。夏休みの毎週土曜日、夜九時半から十一時まで、校区内の重点地区を回るものでした。これは、夜風に吹かれての散歩という優雅なもので、会員相互の意思の疎通が図れるよい企画であったと思います。ただ現実には、深夜はいかいやバイクの乗り回し、喫煙、シンナー吸引などの現場に遭遇することも多く、とても健全といえる状況ではありませんでした。ともかく、そんな子どもたちに、声かけをするのが、私たち地域の大人の役目だということを再認識したのです。
またある時、生徒たちの長距離歩行を支援する企画が持ち上がりました。これは学校行事が縮小される動きの中で、伝統の火を消すなという父親からの発案でした。それが学校やPTAだけでなく、地域を巻き込み、大きなうねりになったのです。この企画は、予算もなく、すべて手作りでした。当日の集合は朝五時でしたが、前日の夜は、幼いころの遠足に行く前の日のような、ワクワクした気分でした。当日、参加している子どもたちは、普段とは違って生き生きしていました。心地よい疲労とともに、何か子どもから活力をもらった気さえしました。