国際化と人権 
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スウェーデンと日本の考え方の違い


 そういう背景を元にして、現在のスウェーデンと、日本との考え方の違いをいくつか取り上げたいと思います。
 まず、スウェーデンでは、家畜福祉法というユニークな法律が1988年の7月に国会で成立しました。どういう内容かというと、家畜に対しても福祉をというような考え方、具体的には、牛は放牧されないといけないとか、鶏は狭い鶏舎の中で餌だけ食べているのはだめだとか、豚はホルモン剤などを飲まされることなく、年に何回かオスとメスの幸せな時間を持たなければならないとか、そういう家畜に対する配慮です。実際にそうすると、設備投資をしなければなりませんから、卵や肉の値段が上がります。生活にも影響が出るかもしれないけれども、それは仕方がないということです。それが1番目です。
 2番目に、イギリスでは「ゆりかごから墓場まで」という言葉が有名ですが、スウェーデンでは「胎内から天国まで」という言葉をよく聞きます。
 3番目に、日本では人生80年時代という言葉がありますけれども、スウェーデンでは「人生100年、最後は1週間」という言葉があるんですね。100歳までしっかり生きて、寝たきりになるのは1週間ということなのです。
 4番目に、スウェーデンでは、「寝たきり老人」というような、「寝たきり」という概念がありません。寝たきり老人というのは、誰も好きで「寝たきり」になっているわけではなくて、周りの様々な環境によって、「寝かせきり」の状態になっているのではないかという考え方です。それは、老人の寝たきり度が、スウェーデンでは日本の10分の1という数字にも表れています。
 5番目に、スウェーデンには、日本でいう「嫁」という言葉がありません。この「寝たきり」という言葉と「嫁」という言葉は、うまく通訳できない言葉だと聞いたことがあります。どういうことかというと、お嫁さんが、結婚した相手の親の介護をするために、自分の生活を犠牲にするということがないということです。それでは、介護を誰がやるのかというと、結局日本でいう市町村、スウェーデンではコミューンという自治体がその責任を負うということがかなり徹底しているのです。ですから、介護のために旅行にいけないとか、あるいは働いているのを辞めるとか、自分が犠牲になるようなことはないということです。個人差はあるかもしれませんけれども、そういうことは行政の責任ということになっています。
 6番目に、日本で福祉とは何かときかれたら、ボランティア精神だとか言われる。でも、スウェーデンにおける福祉は、そういう精神論ではなくて、「財政」であると言われます。ある程度の財政的基盤の上に老後の豊かさがあるということが福祉なのです。実は最近、その社会福祉とか社会保障というという言葉が消えつつあるんですね。今は、生活保障という言葉が多くなっています。なぜかというと、福祉というと何か、弱い人に対する施しみたいな意味になってしまうからです。

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