「ホームレス」と市民 
もどる  目次へ  すすむ  
市民から見たホームレス


 それでは「市民から見たホームレス」ということをお話ししていきたいと思います。
 先ほどお話ししましたように、名古屋市は2002年1月に「市政モニターアンケート」を行いました。このアンケートで市として初めて「ホームレス」についてのアンケート調査を行ったのです。
 「あなたは野宿生活者、ホームレスを見かけますか」という問いに対して、約90%の方が「見かける」「ときどき見かける」と答えています。「どの場所で見るか」という問いには、何と90%が「公園」と答えたのです。これは先ほどホームレスが公園に多いということとまさに符合するのです。
 「野宿生活をしている人を見かけたとき、どのような関わりを持たれましたか」という問いには、「関わりを持とうとは思わなかった」とおっしゃった方が87.9%いらっしゃいました。これは決して思わなかったから悪いとは私は思っていません。皆様方市民としては、“関わりを持とうと言われてもどうしたらよいのか”という気持ちがあると思います。どうしたらよいかわからないのです。あるいは関わりを持とうとは思わないという方もいらっしゃると思います。これはもう少し後でお話します。
 それから「野宿生活をしている人が野宿にいたったのは、何が原因か」ということを聞いております。「勤め先」や「商売」という理由を「社会的理由」とします。「病気」や「高齢」、「身寄りがない」という理由を「個人的な理由」とします。また「働くのがいやだ」「本人が望んだから」という理由を「自己責任」とします。これは複数回答ですので合計が合いませんが、原因を「社会的理由」と認めた方が市民の方の約67%、「自己責任」は64%、「個人的理由」は33%となっています。やはり一般市民の本音の部分は、ホームレスというのは倒産や失業が原因になっているのではないかと思っているようです。しかし「自己責任」も同じくらい割合が高いのです。怠けていた、あるいは自分が好きでやっているのだろうというのもほとんど同じ割合です。私はこれを“二元論”と言っているのですが、本音と建て前を使い分けているのです。本音では「やはり彼らは怠け者だ。朝からお酒を飲んでいる」と思っているのです。この間も朝日新聞で生活保護の特集をやっていましたが、「何で彼らにお金を使わなければいけないんだ、私たちの方がよほど大変な生活をしているのに」と出ていました。関係者はこのような市民感情があるということを事実として受け止めなければなりません。これから政策課題として名古屋市がどのように理解し展開をさせていくかが、実は重要な問題なのです。
 名古屋市の市政モニターアンケート調査では実態調査を利用しております。例えば「ホームレスの方はこれだけ働いてこれだけの収入を得ているということを調査しましたが、あなたはこの数字に対してどのように思いましたか」という質問をしております。ほとんどの方に自分が思っていたホームレスのイメージと実態に距離があったようです。
 先ほど申しました本音と建て前の部分で言えば、実は名古屋市民の方々は本当のことを知らなかったのです。この中にもたくさん名古屋市民の方がいらっしゃると思いますが、実態はかなりイメージと違っていたのではないでしょうか。ですから私が今日こうしてお話をしているのは、できるだけ実態を知っていただき、そこから皆様方にいろいろ考えていただきたいと思ったからです。決してホームレスというイメージで、彼らを評価したり判断したりするのではないのです。私のこの実態調査は100%正しいとは思いません。1,318名の20%が対象でしたし、対象の方々から正しく聞いたかと言いますと、そうは言えないこともあります。ですから調査が全てとは思っておりませんが、1つの結果としてこういうものがあるということを前提にしていただいて、皆様方のイメージをどう付け合せてみるかが大切なのです。その中で「ホームレスの方々が怠けているんだ」「ほとんど自立していない」「自分で何もできないじゃないか」と思われるかもしれません。しかし、「自立」ということで言えば彼らは完璧に自立しているのです。
 さらに調査では、市民として「ホームレス」にどのような関わりが持てるのでしょうか。あるいはどのような関わりを持ちたいと思うか。そのことを自由意見として調査をしています。実に様々な意見が寄せられました。「ホームレスに対しては何とかしてやれ。」「税金を使ってでもかまわないから、仕事を見つけてやれ。」「宿舎を造ってやれ。」「住宅を造ってやれ。」という意見が多数寄せられました。もう一方で多かった意見は「ホームレスになったのは彼らの責任なのだから、何で彼らに税金を使うのか。」という意見です。このような意見が多かったという客観的事実もあります。皆様方のお気持ちもそうだと思います。ですから私は皆様方に、「彼らは大変な生活をしているんだ。是非彼らに理解をしてくれ」と強制しているのではありません。事実を皆様に知っていただきたいのです。是非今日お帰りになったら、家庭で話題にしていただきたいと思います。

もどる  目次へ  すすむ