「ホームレス」と市民 
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名古屋市のホームレス実態調査と特徴


 私は昨年の9月に、名古屋市からホームレスの実態調査をするよう依頼を受けました。県立大学に入ったばかりの1年生を中心に日本福祉大学や、同朋大学、金城学院大学、中部学院大学にも参加していただき調査しました。約70名のスタッフで名古屋市のホームレスの聞き取り調査を5日間にわたって行いました。
 まず、私たちが行った調査の概要について簡単にお話します。
 名古屋市では現在1,318名のホームレスが確認されていますが、その約20%の261名を対象に調査を行いました。調査期間は9月3日(月)〜9月7日(金)の5日間であります。できるだけホームレスの方々の実態を知ろうということで、夜間の調査も行いました。具体的には、夜9時半頃の長者町の繊維問屋街に行って調査して参りました。誰一人あの町を通る人はいません。猫1匹いないほど静まりかえっている問屋街なのです。その問屋街に暗闇から手提げかばんとダンボールの箱を抱えた人が現れるのです。公園にテントを張っているホームレスとそうではないホームレスとに分けますと、彼らはそうではないホームレスなのです。彼らはどこで寝るか、どこで雨宿りをするか、雨宿りをしながらどこで休むかということを常に考えているのです。まさにその日暮らしの生活をしているのです。どこか軒下があるとそこに毛布とかダンボールを敷いて横になるという一群が、その問屋街に大変多くいらっしゃったのです。私たちはその寝床作りをしている方々にお話を聞きました。中には断られることもありましたが、逆に「是非話を聞いてほしい」とおっしゃる方もいました。ではこれから261名の調査結果の特徴も含めてお話をしていきたいと思います。
 名古屋市のホームレスの推移をお話していきます。いつからの推移かと申しますと、ご覧になっていただいているスライドでは、97年、98年、99年というようになっています。先ほど私は98年頃から名古屋市において大変ホームレスの数が増えてきているというお話をしました。97年に645名が確認されているのですが、この4年後の2001年は1,318名が確認されました。ですから名古屋市では4年間にホームレスの数が倍以上になったのです。4年間で数が倍以上になっているという都市は、おそらく全国の中でも名古屋市を除いて他にはないだろうと思います。
 次に、ホームレスの方々の年齢を見てみました。全体の約43%の方が50〜59歳でした。その次に多かったのが、60〜69歳で約37%でした。それから50歳未満が13.6%、70歳以上が7%おられました。この年齢を他の都市と比較してみたいと思います。
 年齢構成を名古屋市と大阪市、東京23区の3つの都市で比較してみました。3都市の比較をしましたところ、名古屋市は1番高齢化率が高く、平均年齢は57.3歳でした。大阪が55歳、東京23区が52歳でした。50歳未満の人は名古屋市が一番少ないのです。逆に70歳以上・60歳代は名古屋市が一番多いのです。逆に50歳代は東京あるいは大阪の方が若干多いということで、名古屋市ではホームレスをされている方の年齢が大変高いということがわかりました。
 続きまして野宿期間がどのくらいかということを見てみます。名古屋市のホームレスの野宿期間は、1年〜3年が27%です。その他はだいたい17〜19%です。1年〜3年が他にくらべて10%ほど割合が高いのです。その次が1年未満、3年〜5年、5年〜10年、と続いています。何と野宿生活10年以上の方が18%いらっしゃいました。私の記憶が正しければ20年以上という方が18名ほどいらっしゃいました。最初に1年〜3年の方が他の割合に比べて10%ほど多いというお話をしましたが、先ほどお話しました98年くらいからホームレスの数が大変増えてきたということと符合するわけです。
 それではホームレスの方々がどこで生活をしているのか、場所を確認しました。何と約73%(72.7%)が公園なのです。実はこのことが後ほど述べる皆様方一般市民と、ホームレスとの間に摩擦を生み出す原因となっています。続いて多かったのが歩道や通路です。それから建物の軒下と続いています。わずかな軒下で毛布を敷いて寝ているのです。なぜそこに寝ているのかと聞きますと、「公園で寝たり、道路で寝ているといたずらをされる。恐い目に遭った」という方がおられました。公園で生活しているホームレスが多いことは名古屋市の特徴の一つです。
 ホームレスの野宿形態についてお話します。東京と名古屋で比較してみました。野宿形態を「常設型」と「移動型」に分けてお話していきます。常設型は小屋やテント、常設しているダンボールハウスで生活している形態を指します。移動型は敷物のみや何も用意していない、あるいはダンボールを小脇に抱えて夜中うろうろしているといった形態を指します。名古屋は半数強の51.3%が常設型、残りが移動型となっています。東京は常設型が41.7%、移動型が57.9%です。移動型の方が多いのです。東京と名古屋では常設型と移動型の割合が、ちょうど逆転しているのです。
 名古屋市のホームレスの特徴としまして、高年齢者が多かったということが挙げられます。最高齢が83歳です。野宿の期間が大変長いことも挙げられます。それから先ほど述べませんでしたが、よく「名古屋市や愛知県がホームレス問題に力を入れると、どこかからホームレスが集まって来るのではないか」といわれます。しかしそのためにわざわざ集まって来るでしょうか。実はこのホームレスの方々は大半が名古屋市、愛知県出身なのです。愛知県で最も長く職に就いていた方々や、ごく最近愛知県や名古屋市に住んでいたという方々なのです。ですからわざわざ東京から新幹線に乗って来るわけはありません。特に東京・大阪・名古屋を比較しますと、愛知県が一番当該出身者が多かったのです。
 野宿場所として73%の方が「公園」と答えたことも、特徴として挙げられます。これは東京と比べると倍近く多い数なのです。これがなぜなのか、理由は簡単です。東京は東京駅や新宿駅をはじめ、ターミナル駅をたくさん持っています。私はたびたび夜行バスで東京に行きます。朝5時半頃に東京駅に着きます。八重洲に行きますと、八重洲の駅ビルにホームレスが沢山雑魚寝しています。こういう光景は名古屋にはありません。野宿する場所が名古屋の場合は公園しかないのです。地下街や駅にはほとんど野宿していません。ですから先ほども申しましたように可視化するというのは、公園で野宿をしているがためにどうしても可視化せざるを得ないわけです。
 野宿場所に公園を選択する理由は「トイレ、水道、あかり」「雨露をしのぎやすい」でした。そうして集まってくると大変多く集まってくるので、公園に行くと仲間がいるわけです。こうしてコミュニティができあがるわけです。

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