やっと本題に入りたいと思います。本題は、「ヨーロッパ精神医療史の落穂拾い」という副題にあるように、ヨーロッパの話題です。しばらく堅苦しい精神障害者の人権ということは忘れて、私がここ数年取り組んでいる、ベルギーのゲール(Geel)という町の歴史を中心に、数百年前の精神病者の日常を追っていきます。
ベルギー全図 |
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ゲールは中世に始まる精神病者の巡礼地の一つです。ベルギーの港町アントワープから東へ鉄道で50分くらいのところにあります。ゲールの守護聖人は、聖ディンプナという女性です。この聖ディンプナには伝説があります。
ディンプナはアイルランドの王の娘でした。王である父は、妻を失い、悲嘆に暮れます。家来に妻に似た女性を探させるが見つかりません。そこで妻に似た自分の娘ディンプナに結婚をせまりますが、ディンプナは拒絶し、聴罪司祭ゲレベルヌスを伴って逃走します。海を渡ってアントワープを経由して、内陸部に入り、ゲールにたどり着きますが、追っ手に発見され、ゲレベルヌスの処刑に続いて、娘は怒り狂う父親によって処刑されます。これは紀元600年頃のこととされ、殉教した2人は、聖人となりました。遺体はゲールの住民たちによって埋葬され、次第に彼らの墓が癒しを求めてやってくる人々の避難場所となっていきました。そのため彼らの遺物を掘り起こして、敬虔な信者たちの敬意に答えることになりました。ところが土を掘り起こしたところ、純白の石棺が二つ見つかり、それはその地域では見られないもので、人々はそれが天使のしわざと考えました。以上が伝説の骨子です。
聖ディンプナのイコノグラフィー |
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