それからしばらくいたしまして、私はあの『男はつらいよ』の寅さんシリーズを撮り続けた山田洋次監督とお目にかかるチャンスがあり、いろいろ裏話を聞かせていただきました。
そのとき、ふと山田さんがこういうことを言われました。
「自分はあの『男はつらいよ』シリーズの各巻に、必ず夕陽の1シーンを入れることにしている。」
こう言われて私は驚きました。確かに私もあれは好きでよく見ている。その中に印象的な夕焼けのシーンが出てくることも、若干記憶には残っていたのでありますが、これは知りませんでした。ああ山田さんも夕陽には格別の思いをお持ちだったんだなと思いました。その山田監督のイメージ、考え方が、あの寅さんシリーズを、あれだけ人気のあるシリーズにしたのではないかとさえ、私は思いました。夕陽は大事だよ。落日を拝む日本人の心を大事にしようではないかというメッセージですよ。それがジワーッと、あの映画を見た後、人々の心に浮かび上がってくる。そういう効果があったのではないか。
そして、渥美さんが亡くなった後はもうあれは撮れない、と次に『学校』シリーズを作り始めましたよね。これには全部夕陽のシーンが出てきますよ。山田監督は最後まで夕陽にこだわるのでしょう。私はそのとき、「同志を得たな」という感じがいたしました。