高等教育機関と生涯学習 ―世代共生と地域共創のために― 
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生涯学習型大学構築への飛躍段階

(3)キャリア・ディベロップメント・プログラム


 キャリア・ディベロップメント・プログラム(CDP)センターは、ほかの大学等では既に開設済みのところもあることを承知していますが、今年4月1日から私どもの大学でも立ち上げました。さしあたりは、在校生を中心にいくつかの資格科目や国家資格受験科目等への対応、さらには就職相談というかたちから出発しています。これは社会人を含めた生涯管理、ライフロングデザインあるいはトータルライフデザインなどと言われていますが、行く行くは、といっても早急に、それぞれの方の生涯管理を支援する機関にしていきたいという気持ちがあります。大学等の高等教育機関でCDPセンターを持っているところでは、それぞれの特色なりカラーがあると思いますが、これ学生等に対する資格科目や国家試験受験科目の準備段階にとどまるのかどうかという点に、私どもの大学は大変大きな関心を持っています。
 18歳人口中心の通学教育で、いわゆる入り口としての18歳、出口としての22歳で一応大学の使命はおしまいであって、大学を通過した学生たちは同窓会の会員としてその後も大学とかかわりを持つことは可能ですが、それが大学の通常のかたちとして今後も引き続くのかどうかということです。私の考えは最後へ飛んでしまいますが、それぞれの人にとって、大学とは現行では少なくとも18歳以降というのが主要なところになります。が、18歳の人生なり生涯においてただ4年間限りの通過点ではなくて、一生涯にわたる根拠地、ホームベースというかたちに姿を変えていくのではないでしょうか。つまり、必要があればいつでもそこへ戻ってきて、何度でも学び直すということが実現していきますと、一番初めにお話しした大学の原点回帰という意味が、これだけでもかなり出てくるように思われます。
 中世ヨーロッパの老若たちは、先生の講義を一通り聞いて、それでさよならではありませんでした。実際生活とのかかわりで必要があれば何遍でも大学へ顔を出し、講義を聞き、先生と議論をし、また自分の実際生活に戻っていくというかたちを繰り返しており、私はこれこそがリカレント教育という名前に一番ふさわしい姿ではないかと思っています。本学でも、その一部分は既に生涯学習センターで実現しています。つまり、別の意味でのマーケット論から言えば、顧客を1回限りで手放さないということになります。あるいは、リピーターをどのように継続的に確保していくかという問題にもなろうかと思います。それの重要な一環として、キャリア・ディベロップメント・プログラム、CDPセンターを立ち上げたいという気持ちを私は持っています。
 ごく一般論で申し上げますと、それぞれの大学によって対応は異なるかもしれませんが、従来大学には学生の受け入れのために入試課による学生募集があり、学生を送り出す際には就職部就職課というのが、通常のパターンとしてあり得たわけです。ところが、これからの大学は就職部就職課とCDPセンターの2本立てで行くのか、それともどこかで1本化されるのか、こういう問題が近い将来出てくるようにも思われます。おそらくこれからは、就職する学生を社会人として送り出す場合に、就職課の役割として求人のあった企業からの伝票を掲載し、学生がそれを閲覧してどこかを選び、大学の紹介でそこへ入社試験を受けに行くというようなかたちのままで、いつまでも過ぎていくとは思いません。
 まして我が国の大学でも、在学中に学生と大学と企業が協定して、学生をフィールド教育のために現場へ送り出すというインターンシップがますます盛んになると思いますし、そのインターンシップを含めて、今アメリカではむしろコーポラティブ教育というのが主流になりつつあるようです。つまり、企業と大学と地域の三者が協定して学生のフィールド教育にあたるという、コーポラティブ教育の方向が出てくれば来るほど、就職部では求人の紹介、そして送り出しということには尽きなくなるであろう、新しいかたちの就職の形態が模索されていくであろうと思っています。
 いずれにしましても、CDPセンターでは、在学生と社会人のリカレント教育にも関連する、キャリア・ディベロップメントにかかわった事業がこれから展開されていくのではないかと予想されます。そのこと自体は従来の大学の本業の中にはなかったことであり、大学院の一部等ではそれに似た形態を持っているところがありましたが、学部教育ではなかったのです。これも、新しい大学の変容、変質ということを、外発・内発ともに促していく要素になろうかと思います。

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