高等教育機関と生涯学習 ―世代共生と地域共創のために― 
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生涯学習型大学構築への飛躍段階

(2)通学課程から通信過程へ


 私どもの大学でも4月1日から通信教育部を開設しました。専門学校では10年くらい前から既に通信教育を行っていますが、大学ではこの4月に初めて立ち上げたのです。私は通信教育部長も兼務で仰せつかっています。
 新聞等で報道される場合に、記者たちが大変関心を持たれる言葉として「IT大学」がありますが、この通信教育部の特徴として「IT大学」であると取材され、新聞記事に随分取り上げられました。これは決して誇張ではありません。
 この通信教育部では、今までの通信教育で主流であった通常の郵便システムは、一番初めに応募者の方から入学の申込書が送られてくる段階で行われます。そこで、通信教育部は審査を行って入学許可をしますと、それと合わせて本人が取得を希望するその年度の学科目のテキストを直ちに送ります。まだ初年度であり、通信教育部では16科目を開講してはいますが、16科目のうち14科目はすべて内製です。内製とは、それを担当する本学の教員が、2単位分なり4単位分を教科書として直接自分で作成するということです。いわゆる外販もの、既に書籍マーケットへ出ているものを利用しているのは2科目だけですが、入学した通信教育部の学生はその年度の単位取得希望科目を早速指定してきますので、それに対して書籍を送ります。書籍はインターネットで送ることはできませんので、郵便システムに従って送ります。郵便システムを使うのは、おそらくその2回だと思います。
 あとは、応対から授業の実施、途中での質問や回答、学習の進度をはかるための予備テスト(2単位ものでは4回行われる)、期末に行われる本テスト、その他の連絡など、これらすべてをインターネットないしEメールを使って行っています。それが「IT大学」と言われるゆえんだと思います。
 合わせて、私どもにとって大変うれしい出来事が4月から起こっています。それは、文部科学省による大学の通信教育についての規定が改正されたことです。従来は、卒業に必要な124単位のうち少なくとも30単位まではスクーリングで行い、スクーリングのうち10単位までは、対話が双方向性のものであれば、マルチメディアあるいは放送授業等を使って行ってもいいのですが、あと20単位は対面授業を行うのです。つまり、実際に学生が1つの教室へ集まって、そこで教員が直接対面して授業を行いなさいということが、大学の通信教育の規定でした。ところが、その規定が4月に改正され、30単位のスクーリングは必要なのですが、それは対面授業または双方向マルチ型の授業で行ってもよいということになりましたので、必要があれば対面授業は行わずに、マルチメディアだけで30単位を行うことが可能になりました。
 実は、それに先立つ3月時点から、私どもの大学の通信教育部では文部省にしばしばご相談申し上げている事項がありました。今年度1,000名を超える学生が入学をしましたが、その中の2名、1名は特定された病気で長期入院をしており、もう1名は原因不明の難病でやはり入院をしています。この2名については、スクーリングとして対面授業のために病院から外へ出ることはできないという事情がありました。しかし、本人の希望があるので、病院の方ではぜひ実現させたいということで、その患者のベッドの枕元までインターネットの端末機を引くことは協力しますが、医師の所見では病院外へ出ることはできませんという回答でした。何とかこの人たちに通信教育を受けさせたいと、文部省にはずっとご相談申し上げてきたのですが、即答はいただけず、検討してみましょうということでした。それが4月の段階で、長期入院の方でも通信教育を受けることが可能になったのです。
 といって、本学の通信教育部ではスクーリングの対面授業はやめて、インターネットで全部やってしまえという方針をとっているわけではありません。インターネットですべてを行えるという方々は例外規定であり、健常の方たちはインターネットのほかに、年間に所定の回数は対面授業というかたちでのスクーリングを、むしろ強化していこうということになっています。通学課程から通信課程へということで特に強調しておきたいのは、長期入院あるいは経済事情、家庭の事情等により、スクーリングとしての対面授業に足を運べない方々のためにも、通信教育により教育機会を圧倒的に拡大したいという思いがあったということです。これが実現されたことを大変うれしく思っています。

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