高等教育機関と生涯学習 ―世代共生と地域共創のために― 
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生涯学習型大学構築への飛躍段階

(1)開放・拡張の成果の内実化


 私どもは21世紀へ向けて、今まで行ってきたようなかたちだけで、大学あるいは学園の経営を順調に行っていくことができるかどうか、それが今日の段階に至るまでに繰り返し検討され、ここへ来て思い切った手をいくつか打っていく必要があるだろうということになりました。それが生涯学習型大学構築への飛躍段階であり、生涯学習というものをいよいよ本格的に大学の本業の中に据えて、大学の再構築を考えていく時代に入ってきたのではないかと考えています。
 その第1が、開放・拡張の成果の体内化、あるいは内実化と言ってもいいと思いますが、それを大学の本業の中へどう組み込んでいけるかという問題です。例えば昨年度の大学院入学生の中で、最高齢の方はたしか72歳でしたが、ある福祉関係の施設経営者です。本学の大学院へ入学してくるに至ったいきさつは、その方は長い間本学の生涯学習センターの受講者として勉強されてきたのですが、その間にいくつかの学部の科目等履修生になり、学部との関係を緊密にとってきたあげく、一念発起して、大学院で体系的に勉強してみたいと思い立たれたということです。
 そのほかにも、生涯学習センターの受講者には、学部においていくつかの科目の聴講生となっておられる方も少しずつ出てきています。生涯学習で学ぶことの意義や成果を、もう少し体系的な学習にどう結びつけていくかということで、少しずつ変化があらわれ、生涯学習の受講者の中にも飛躍への芽が見いだせるようになりました。
 ついでに申し上げますと、私どもの大学では生涯学習センターを受講されたほとんどの方々が、受講後も生涯学習センターを離れずに、ライフロング・エデュケーションセンター(Life-long Education Center)同窓会というかたちで、LECという略称で言いますが、引き続き自分たちで自主的に学習を継続されています。その中でも一番活発なのはシニアネットであり、文字どおり50歳以上のシニアの方々を対象にしたパソコン入門講座を、平成7年度の生涯学習センターの開設時から毎年ずっと行ってきました。それを受講したシニアの方々は、年度ごとに「シニアネット何々」という名前をつけて、そのまま活動を続けられています。現在では既に100名近くになっているのではないかと思います。
 愛知県リカレント教育推進会議というパンフには、私の略歴や主な社会活動が紹介されていますが、私は1997年に文部省(現在では文部科学省)より、生涯学習審議会の社会教育文化審議会の特別委員を仰せつかり、今日まで至っています。生涯学習審議会では、1998年10月に文部大臣あての答申を行いました。これは、当時全国的に規制緩和が問題になってきており、生涯学習の分野でも規制緩和をどのように図っていくかということに沿った答申ですが、これを出す際に大変な問題点になったことが1つありました。
 生涯学習審議会の社会教育文化審議会の中で議論が交わされたのですが、インターネット等情報に関連して、原案ではいわゆる情報弱者の中に障害者とか高齢者等の言葉が入っていました。つまり、障害者の方々が情報弱者であることはよくわかりますが、高齢者の方々も情報弱者であり、そういう方々には特別の配慮が必要だということをうたったものです。私は持論として、その中からあえて高齢者の方々を外すようにという提案をしました。結果的には高齢者の方々は外れました。私どもの大学の生涯学習センターで、シニアネットの活動においては、現在では年季の入った方々には既に5〜6年のキャリアがあります。実はその方々は、生涯学習センターから独自に委託を受けて、同僚であるシニアの方々を集めて自主的な講座を開くまでに成長されているのです。
 私どもの大学の半田キャンパスは、学部そのものが情報社会科学部なので、パソコンがキャンパス内に600〜700台入っており、かなり融通がきくためにパソコン関係の講座が必然的に多くなります。ここではまず、大学の教員が率先して講師役を務めますが、高齢者の方々に限らず、いろいろな階層の方々のパソコン講習にあたります。生涯学習センターは、1995年から4年間半田市と特別契約を結び、連携して共催講座を行ってきていますが、今全国的に行われているIT講習なども半田市と連携して行っているところです。第一には、大学の教員があたるということです。
 2つ目の特徴は、情報社会科学部の学生が講師になり、生涯学習センターの正式なアシスタントとしてパソコン関係の講座を開催しているということです。私も情報社会科学部に所属する教員なので、学生の状況はつぶさに見ていますが、学生は大体入学してから2年ないし3年たてば技術的には教員のレベルをはるかに超えて、パソコン操作には優秀な能力を発揮しています。そのように、学生たちの一部はアシスタントとして生涯学習センターの講師を務め、一部は知多半島を中心にした小中学校あるいは行政関係などで、ホームページ作成のお手伝いをするのです。さらには市民レベルで、パソコンを購入したがどうしてもホームページの作成がうまく行かないという高齢者の方々の自宅に、ボランティアとして出かけていって、ホームページの作成をお手伝いし、夕飯をちゃっかりごちそうになって帰ってきたりしています。
 3番目は、受講者自身が講師を務めるケースです。今一番多いのは、シニアネットの関係だと見てよろしいかと思います。このように、高齢者はその気になれば必ずしも情報弱者ではないと文部省でも申し上げたのですが、いろいろな工夫をしながら、生涯学習の成果を少しずつ大学の中へ取り込んでいくという方向で、今実践している最中です。

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