高等教育機関と生涯学習 ―世代共生と地域共創のために― 
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生涯学習型大学構築への助走段階


 まず、通学課程の社会人入学です。通信教育の話は後程になりますが、通学課程の学部に社会人が入学するようになったのは、日本の場合でも戦後60年代以降30〜40年の歴史を持っています。社会人のための特別選抜入試が行われるようになったことには、2つの意味合いがあったように思われます。
 その1つとして、1960年段階では現代のような問題点がまだそんなにクローズアップされてはいませんが、今日では私どものような大学は18歳人口の激減という状況に直面しています。全国レベルでも、大学でも特に短大ではかなりの数が定員割れの状況を示してきています。これは、大学が社会人の特別選抜入試を検討せざるを得ない、いわば外発的な圧力の部分であると思います。
 同時に、大学には大学としてのそれぞれの理念があり、その理念から出発して、大学の教育・研究の果実を社会人の方々とも広く共有していこうということは、今日のような18歳人口の激減という状況に直面するかなり前から行われてきました。日本福祉大学の場合は、社会福祉学部の第2部である夜間課程では、30数年前の1960年代後半には既に勤労者の特別推薦入試制度を設けていました。1970年代に入ると、これが勤労者から社会人一般の方へと拡大してきました。そういう点では、私どもの大学は大学なりの理念に基づいて、当面夜間の第2部という限定はありましたが、勤労者入試から社会人入試へと踏み切っており、これが生涯学習型大学構築への助走段階の1つであると私は見ています。
 2つ目は、ここ10年以内、特にこの数年間に、大学の教育を社会人の方々と広く共有しようという試みを、そのような生涯学習的な事業を、ほとんどどこの大学でも手がけるようになったということです。大学の付属機関あるいは付置機関として、私どもの大学では今から6年前に生涯学習センターを開設しましたが、大学開放センター、あるいはユニバーシティ・イクステンションなど、その名称は大学によってさまざまです。
 ただ、生涯学習という今日のテーマから見ますと、生涯学習センターとか、もっと抽象的に大学の拡張、ユニバーシティ・イクステンション、あるいは大学の開放、オープンカレッジ、オープンユニバーシティーなどという場合に、それぞれの大学は本業として18歳人口を中心とする通学課程の学部を持っており、いわば余業として、大学の教育研究の成果を地域や社会人に還元するというかたちをとっていることが問題です。それらは、率直なところまだ大半の大学にあてはまることではないかと思います。私どもの大学でも、そういった状況から完全に抜け出せているわけではありません。
 ただし、私どもの大学では平成7年度(1995年)に生涯学習センターが設立されて以来、大学の拡張あるいは開放という言葉を意図的に用いていません。これには理由があります。大学が余業として市民や社会人の方々に生涯学習を提供するということでは、おそらくこれからの新しい時代、21世紀を乗り切っていくことはできないでしょう。社会人を対象にして大学が行う生涯学習等の授業それ自体を、むしろ大学の本業の中にどう取り込んでいけるか、あるいは行くべきかという検討が、合わせて行われる必要があるという考え方に基づいています。したがって、私どもの大学もまだ助走段階であり、生涯学習事業はそれとして、大学の美浜校舎及び半田校舎の両方に生涯学習センターのブランチを設けています。
 3つ目がサテライト方式の導入です。私どもの大学では、名古屋市内にコミュニティスクール及びマネジメントスクールという2つの生涯学習機関を設け、生涯学習事業に取り組んでいます。ただし、名古屋サテライトのコミュニティスクールは完全な生涯学習事業ですが、マネジメントスクールは社会人対象の夜間大学院と関係を持っており、むしろ夜間大学院との連携ということを重視して、フィールドの提供なり、幅広い研究会の開催なりを考えています。
 もう1つ、私どもの大学は、大学のほかに専門学校が密接に関連する、社会福祉関係の研修所を持っています。専門学校そのものが福祉系なので、この研修所ではスタッフ等を含めた特徴を生かしながら、愛知県下各市町村における介護福祉士の養成事業等に取り組んでいます。これも広く言えば生涯学習型の事業だと思います。

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