メロドラマ・女性・イデオロギー 
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アメリカとメロドラマ

<18・19世紀の演劇・大衆小説の繁栄>

 アメリカとメロドラマの関係ですが、アメリカという国の建国自体が非常にメロドラマ的であると言われています。つまり、この場合、イギリスが悪なのです。イギリスから逃れてきた人々が中心となってアメリカ植民地を形成しましたが、彼等にとってイギリス、ひいてはヨーロッパは、退廃と悪に他なりません。道徳的に退廃した母国イギリスから独立して、新天地アメリカでやり直すということ自体がメロドラマ的だということになります。
 ところで、18世紀、19世紀に演劇とか大衆小説が繁栄したときに、その中でメロドラマ性のあるものや、メロドラマとはっきり断定されるような小説が流行しました。例えば『コケット』(1797)は独立後の作品ですが、独立前を舞台としており、ハンナ・フォスターという女性が書いています。
 また独立戦争後にはスサナ・ローソンによる『シャーロット・テンプル』(1794)がありますが、いずれも、結婚する約束をしていた悪い男にだまされ、身を誤った若い女性が身ごもった末に子供も亡くし、自分も最終的には死んでしまうという物語です。とりわけ『シャーロット・テンプル』は大ヒットとなりました。シャーロット・テンプルとは小説の女主人公なのに、20世紀になっても彼女の墓がボストンのどこかにあると言われていて、そこに参る人が延々と続いたと言われています。
 南北戦争以前にはハリエット・ビーチャー・ストーの『アンクル・トムの小屋』(1852)があります。奴隷制度に抵抗する政治小説ではないかと言われる向きもありますが、奴隷の母と子の別れ、苦難の末に一族再会するというメロドラマ的なプロットを持った小説です。
 以上に挙げた3つの作品は全部女性が主人公です。『アンクル・トムの小屋』は違うのではないかと考える人もいますが、この作品はストーがキリスト教徒の白人の母親である読者に、奴隷制度による母子の別れの残酷さを訴えたいという意図のもとに、そのとおりに実行されて書いたものです。やはり女性が主人公で、女性に向けられたものであるということに、他の2作品と共通するものがあります。これもまた大ヒットし、聖書のある家には必ずあると言われるぐらい売れました。ちょうど小説が売れた時代に印刷が盛んになったので安くなり、手に入りやすく、読者に非常に読まれたのです。


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