
1989年(平成元年)に日本弁護士連合会が親権について現実問題を踏まえた二つの提言をしており、大変貴重な提言である。今回の児童虐待防止法では具体的に議論されていないが大変貴重な提言であり、今後の議論を期待したい。
その1は、民法834条(親権喪失宣言)に加えて、親権(身上監護権)の一時停止宣告を可能とする制度を新設することが提言されているが、この提言の意味するところは、民法834条が親権の制限として、親権喪失だけを規定していることは、具体的妥当性を欠くもので、「親権の一部(身上監護権)の一時停止」という、親権の不当な行使あるいは不行使の程度に応じた段階的措置が必要であるとの意味である。そのことは、子どもの福祉の立場から、一時的に、不適切な親の権利行使を制限して子どもを保護することが可能であり、又、親の立場からも、環境の変化と共に親の生活状況や態度も変わってくる場合があり、親権を回復して元の状態に戻すことがよりしやすくなるとの考えからである。
その2は、児童福祉法27条7項を改正し、措置の解除、停止、変更に当たっては「児童に面接し実情を調査する」ことを義務付けることを提言している。現行の法27条7項は、「都道府県知事は」児童擁護施設等への入所措置などの「措置を解除し停止し、若しくは、他の措置に変更」する場合には、「児童相談所長の意見を聞かなければならない」と規定されているのに、児童本人に面接をし実情を調査し、児童相談所長の意見を聞かなければならないとの提言である。いずれも二つについての提言は、法律の専門家の立場から検討されており、児童養護施設現場にとっては大変重要な提言と受けとめている。
A子どもが親権者から人権を侵害されている場合に、子ども自身から人権救済について
これが日本は非常に遅れている。
児童福祉法の25条には、「保護者のない児童又は保護者に監護させることが不適当であると認める児童を発見した者は、これを福祉事務所又は児童相談所に通告しなければならない。」という規定がある。要保護児童の発見者には通告義務がある。
更に、法33条「一時保護」に、「児童相談所長は必要があると認めるときは、第26条第1項の措置をとるに至るまで、児童に一時保護を与える。」
いづれも、本人が直接救済を申し出る規定ではない。では、施設の中で子どもが体罰を受けているときに救済方法があるのか。
最近では国の方針でもあり、各自治体での子どもの権利ノートを作成することが要求されほとんどの自治体で作成されているが、内容も含めて利用者が活用できるシステムになっているか検討をする必要がある。子ども本人が直接人権救済を求める規定にはなっていない。子どもにとって利用できる権利ノートが必要ではないか、ということが2点目である。
B施設入所および退所における子どもの権利と子どもの権利擁護の保障について
施設に子ども達が入所する場合に、自分が本当にこの施設に入りたいのか。入る前に、児童相談所にはどんな施設があるか。その施設に入るとどういうことができるのか、できないのか、子ども自身が納得できるように、きちんと児童相談所で教えているかどうか。
例えば、Aという施設は高校へ行きたい子は全部行かせる。Bという施設は公立高校へ行く実力があっても行かせず、中学を出たら働いてもらう。こういう施設があったときに、本人が高校へ行きたいのにBという施設へ入れられたら困るわけである。
子どもが納得して施設に入ることが、大事である。なぜかというと、安心した場所で生活できる。今まで家庭で虐待を受けているか、食事を満足に食べさせてもらえない状況の子ども達が、最初に入るところは安心した場所でなくてはならない。安心して生活ができ安心して勉強ができ、という施設を子ども達に提供するには、事前にそういうことを教えなければならない。もっと言うと、施設を見学させて施設長に逢って説明を聞いて、入所を決定させるような対応をすることが、児童相談所としては必要であると考えている。
5年前に沖縄にゼミの学生を連れて見学した時に、沖縄の児童相談所はそれをやっていた。ある施設を見学していた時に、実際に児童相談所の職員と施設長と子どもが面接をしていた。納得をして施設に入るということが非常に大事ではないか、と施設長が言っていた。
退所についても、家に帰れる子どもは良いが、帰れない子ども達に対して、将来自立できる力をつけて社会に出れるように教えているのかどうか。
例えば、高校3年生になった子どもを1年間一人で生活させて、当然社会生活をすることになると必要なごみや回覧番やクレジットの問題等を一人で解決できるように社会自立のために生活させてみる(リービングケア)。それがきちんとできていれば退所後アフターケアは少なくなると思われる。リービングケアをきちんとしていないと施設を退所したとたんに問題行動を起こして、アフターケアが大変になる。
厚生労働省の中でも予算化されているので、アパートを借りて生活することもできるし、あるいは施設の中でそういう施設を作って1年間一人で生活させることもできる。洗濯等も一人でさせる。すでに多くの施設では実施されているところもあります。
子どもの権利擁護というのは、施設の中で食べさせて着させて寝させる、という生活だけではない。彼らを社会自立するために施設の中で何をさせなければならないのかを日常プログラムに位置づけて生活させないといけない。
子どもの権利を保障する意味で、各自治体で作られている権利ノートの中にこれらの内容が書かれている。それがきちんと守られていった場合に施設はもっと社会に開かれた施設となると思います。
例えば子どものプライバシーの問題に関してこんな議論も職員の中であったと聞く。親から子どもに手紙等が送られてくる。手紙の中にお金が入っている、あるいはテレホンカードが入っているかもしれない。子どもが外出されても困るというので、学校に行っている間に封を切り、手紙を見てしまう。見てから子どもに「こんな物が入っていたよ」と子どもに言う。それは子どものプライバシーを侵していないのかといったこと。
まだ現場では、そこまで徹底していない。子どものことを思ってやっているけれど、プライバシー違反だということは本当に分ってやっているのかどうか。子どものことを思ったら、それを当然だと思っている職員がいたら、せっかくの子どもの権利ノートも生かせない。こういう問題もある。皆さんも施設見学の際には、子どもに「権利ノートを持ってる?」と聞いてみると良い。「持っている。」というのはまだ良い。「持っていない」というところもあるかもしれない。本当は子ども一人一人に渡す時に説明をすることになっているが…。
C施設利用サービスに対する子どもの権利擁護と不服申し立ての手続き保障について
これに関しては十分に解決されていない。こういう問題も含めて、日本では十分に位置づけされていない。今後きちんと対処していく必要があると思う。
子どもの権利擁護と不服申立ての手続き保障というのは、先程の権利ノートにあるが、子どもが分っているのか。又、施設にケア基準というものがありますが、あまりにも福祉施設は問題が起きているということで、国の方針としても出されていますが、委員を委託する施設が多くなっています。第三者不服申立てをきちんとできるようにする。公明性、民主性の確保をするのが課題である。現状では、施設の中でその方向に進められている。