子どもの権利条約を子どもたちが実際に生活している場である地域社会のなかで生かし、実現していこうとして全国ではじめて試みられたのが、川崎市の子ども権利条例の制定であった。(2000年12月)その33条(より開かれた育ち・学ぶ施設)はいう。
◆「施設設置管理者は、子ども、その親等その他地域の住民にとってより開かれた育ち・学ぶ施設を目指すため、それらの者に育ち・学ぶ施設における運営等の説明等を行い、それらの者及び育ち・学ぶ施設の職員とともに育ち・学ぶ施設を支え合うため、定期的に話し合う場を設けるよう努めなければならない。」(下線は筆者)この具体化のために、「学校教育推進会議」が提案されており、教育長名による通知ではその試行のための「指針」及び「留意事項」が明らかにされている。特に指針のなかで、「学校推進会議は、・・・学校(園)の運営等について、保護者、地域住民、幼児・児童・生徒、教職員、有識者等の意見の聴取とその説明等を行い、ともに協力し支え合うために学校(園)に置くものとする。」 委員は10名程度で、1年の試行期間を任期とし、校長、保護者、住民、教職員の他、「幼児・児童・生徒」を含むとされている点は特徴的である。そしてその制度的位置づけとしては、「学校教育法施行規則上の学校評議員的な機能及び、・・・・『川崎市子どもの権利に関する条例』第33条の『より開かれた育ち・学ぶ施設』における『定期的に話し合う場』としての機能の両者を有するものとする。」そして、幼児・児童・生徒から選ばれる委員については、「年齢や成熟にふさわしい参加のあり方を配慮する」ことが明記されている。これは明らかに子どもの権利条約12条の精神に則った手続きとして重要である。(詳しくは、季刊『子どもの権利条約』12,2001.5参照。)
(4)諸外国の学校管理運営組織
すでに諸外国には、学校の運営への父母住民参加に限らず子ども、教職員の参加の例は多く見られる。もはや紙数もつきたのでここではアメリカにおける学校運営への子ども参加の例と、フランスにおける父母参加の例を紹介するに止めよう。
前者については比較的よく知られているが、すでにマサチューセッツほか13州で初中等学校の生徒代表として高校生が州教育委員会に参加していることが知られているし、シカゴ学区の学校委員会では父母住民代表の他、教員代表、校長に加え高校の場合には生徒代表が一人加わることになっている。そこで生徒としての意見表明や代表参加の機会が保障される点は日本と比べ大きな差異と言わなければならない。「生徒参加は、子どもの自律性を援助し、民主主義や自治の担い手の育成に有効である。」(マサチューセッツ州手引き)との教育的信念は普遍であるように思われる。(詳しくは、坪井由実『アメリカと都市教育委員会制度の改革』参照。)
フランスでは、初等学校の場合学校委員会が、中等学校の場合は管理委員会がその運営上重要な責任を負っている。前者は、校長が主宰し校則、週カリキュラム及び学校教育計画の策定を行いさらにその内部運営や学校での全生活に関することがらに関し意見を表明し提案を行うが、それには市町村長、全教員、選挙による親代表が加わることになっている。また後者では、校長の主宰のもと、それぞれ教職員、市町村、親の代表に生徒の代表が加わる。そして学校教育計画、予算案、決算、校則等に関し議決するとともに、協定などの対外的事項に同意を与えるなど学校運営上の重要権限を有することが分かる。やがては国レベルの中央教育審議会には教職員代表の他、親、高校生及び大学生の代表が参加し公教育の運営と目標に関しその意見表明を行う仕組みなのである。(詳しくは、フランス「公教育の生徒の父母連盟」小野田正利訳『生徒の親 あなたの権利のすべて あなたの義務のすべて』、なお文部省『諸外国の教育行財政制度』平成12年参照。)
まとめ ―学校評議員制度のゆくえ―
今日、学校と家庭・地域社会にどのような橋を架けることが本当にあたらしい世紀に必要な地域に開かれた学校づくりに役立つのか、今学校評議員の制度作りで担当の方々は腐心しておられることと思う。私は「参加」がキーワードになるのではないかと考えて話を進めてきたつもりである。しかし、なお大いに論議することにおいて欠けていると強く感じる。原点に返る意味で、「民主的管理には、生徒・職員・父兄の意見と人格とを尊重し、同時にこれらの人々を学校施策の討議に参加する機会を多く持たせる必要がある。」という半世紀前の文部省の指摘をここで想起しておきたい。(文部省『中学校高等学校 管理の手引き』(昭25)より)