現代哲学からのアプローチ・・・「グローバル化する現代と伝統文化」 
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2 「能動的信頼」



 アンソニー・ギデンズ(社会学者)によりますと、伝統は儀礼を伴います。儀礼はある意味で、絶対的に「正しい」とするある特定の心理が関連しています。それを守ろうとする傾向があります。道徳価値内容とノスタルジーといった感情的内容とが一体化し、伝統が成立してきています。例えば儀礼のひとつとして挨拶がありますが、これも集団の中での儀式です。フランシス・フクヤマも日本人の儀礼を高く評価しています。
 問題点は、「内部のもの」と「他者」の区別が伝統にはありますが、民族的なアイデンティティーを考えた時に、アイデンティティーを共有するものとそうでないものの差別があるということです。それが、伝統に従属し、よそ者を排除する分離主義的な特質によるのではないか。そのような排他的特質、分離主義的特質をもつ限り、伝統に我々の存在の意味を担わせることは、排他的な態度であって、我々が求めるものではありません。
 そのような意味での「伝統」概念とは、真の意味で自分たちの歴史や伝統を重視するのではなくて、一種の強迫観念、精神的なヒステリー的な反応だと言っています。
 現代の社会において自分の存在を他のものより勝ったものであると主張することは、哲学の視点として到底維持できるものではないと思います。これも微妙な問題ですが、社会が成立する時に、個人の主体的な契約なのか、それとも自然発生的な地域共同体、あるいは友人・親子・自然発生的な関係性のどちらを重視するかで排他的になるかそうでないかがでてきます。確かに自然発生的な関係は、排他的な傾向を持ちます。
 もうひとつ自分たちが主体的に作り上げるような共同体としての伝統性を樹立する「能動的信頼」です。自ら伝統的な共同性を構築するような信頼を自分の周りに築いていく。そのような信頼は利害関心に定位した計算的なものではなくて、自分の存在の喪失からくる不安を解消しようとする行為であるとします。ある種の安心を与えるような行為としての能動的な信頼。安心は信頼とどう関係するのか、信頼の帰結として安心がでてきて、信頼というものを人から与えられるとか、社会からあるいはシステムから与えられると取るのではなく、能動的な信頼という自分で自分の不安を解消する形で信頼を築いていく態度が必要であるとギデンズは言っています。
 私も、このような「能動的信頼」によって、「伝統的共同性」を創出していくことが必要ではないかと思います。
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