いろいろな人権 『ハンセン病と人権』 
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ハンセン病と人権

(2)ハンセン病問題とは?

ハンセン病とは?   ハンセン病の人権問題とは一体どんな問題なのでしょうか?「ハンセン病?・・・詳しくは知らないけど、とにかく怖い病気でしょ・・・。」こうした言葉は予断や偏見から生まれ、そこには正しく知ろう、理解しようとする気持ちがありません。そして、ハンセン病は、「恐ろしい不治の病」・「遺伝する病気だ」・「非常に強い感染力を持っている」といった偏見ばかりが強化され、「ハンセン病患者は隔離しなければならない」という間違った考えを生み出したのです。これは、医学的根拠の無い判断ですが、この間違った判断は、隔離政策を肯定し、助長する元になっていったのです。隔離されたハンセン病患者は、愛する人や故郷から引き離され、人間としての尊厳を奪われ、今なお人々の根強い偏見に苦しめられています。これがハンセン病問題なのです。



ア どんな病気?
 それでは、「ハンセン病」は一体どんな病気なのでしょうか。ハンセン病は、らい菌による慢性の感染症です。そして、発症すると末梢神経や皮膚が侵されます。けれども、日本人が発症する可能性は極めて少ないと言われています。万一、発病したとしても、現代では確立した治療法により治る病気なのです。ハンセン病の原因となる「らい菌」は、ノルウェーの医学者「アルマウエル・ハンセン」が1873年に発見し、それまで「レプラ」などと呼ばれていた病名を、この発見によりハンセン病と呼ぶようになりました。日本でも、「癩(らい)病」と呼ばれていたのですが、忌まわしい観念や因習的な偏見を払拭するためにハンセン病へと改められたのは、なんと1996年とつい最近のことなのです。


イ らい菌の特性
  さて、1873年ハンセンによって発見されたらい菌は、その後の研究が進み他の病原性細菌とは違う特性があることがわかってきました。1つは神経との結びつき易さです。体内に侵入した菌は、末梢神経で増殖し、結果として運動や知覚、特に痛覚のまひを引き起こします。次に、分裂時の温度の低さがあげられます。このため、比較的体温の低い手足の先や、耳や鼻、目といったところに症状がでることになります。他にも、増殖速度の遅さや毒性の弱さもあって、感染してから菌が十分に増えて発症するまでの期間が、数年から数十年、30年という例も報告されています。適切な治療法が無かった時代においては、これらの特性が着衣で隠れないところに一見してハンセン病と分かる変形や機能障害といった病症・後遺症を発生させたこと、また、ゆっくりと進行する病気であるが故に、感染時期やその経路、治療法の解明を困難にさせたことが、不治の病としての恐れを抱かせていったのだと考えられます。


ウ 有力視されてきた感染経路
ハンセン病とは?  それでは、慢性の細菌感染症であるハンセン病の感染は、医学的にどのように考えられているのでしょうか?未だ解明されない部分の多いらい菌ですが、その感染経路について有力視されてきたのが、免疫機能が正常に機能していない人が乳幼児期に、未治療のハンセン病患者との皮膚接触や鼻腔粘膜を通じて感染するといったものです。この性質が、感染症と確認されるまでずっと遺伝病と考えられてきた原因でもあるのです。しかし、こうした感染源となる未治療患者が日本においてはほとんどいないとことや、成長や生活状態の向上に伴い免疫力を自然に獲得することからも、通常、感染に至らないと考えられています。最近の研究では、患者を感染源とする説自体が疑問視されているのです。そして、感染した菌が体内で増殖し続け、人体に不都合な症状が現れることを発症と呼びますが、感染後、誰もが発症するという病気ではありません。また、遺伝する病気でもないのです。



エ ハンセン病の発症要因
ハンセン病とは?  ハンセン病が発症するのは、免疫機能が働かない時だと考えられています。そして、この免疫機能に異常をもたらす原因は、栄養失調や衛生状態の悪さ、また加齢や癌などの病気による抵抗力の低下、戦争や貧困といった社会的ストレスなどが関連していると言われています。つまり、ハンセン病の発症は生活環境に大きく左右され、社会が豊かになって生活水準が向上すれば、相対的に病気の流行はなくなるのです。戦後、飛躍的な発展を遂げ、生活水準が向上したわが国の発症例は、年々減少しており、近年では年に数名で2003年は一人だけでした。また、一時的に免疫力が衰え発症したとしても、生活環境の向上に伴い自然治癒している症例も数多く報告されているのです。

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