親のための子育て経験談集 
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3 各時期で大切なこと

 <乳児期> 育てやすい子と育てにくい子
 人の赤ちゃんは生まれたときから個性を持っています。その個性の背景には「気質」と呼ばれるものがあります。気質というのは、「人の行動特徴の形成する生まれつき持っている外界からの刺激に対する感受性や活動水準、反応の強さや弱さ、速さや遅さなどをいい、比較的安定して持続性を持っているもの」のことをいいます。日々の生活リズムのきまりやすさやきまりにくさにも影響しています。気質は生まれてからの環境の影響を余り受けることはなく、もともと生まれつき持っているものと考えられています。
 この気質によって赤ちゃんを大きく3つのタイプに分けることができます。睡眠や授乳などの生理的なリズムがつきやすく、泣くにしても大きな声で泣いて泣きやみやすく、新しい環境にも慣れやすい「育てやすい子」、生活のリズムがつきにくく、周囲の環境の変化に敏感で、ぐずりやすく、泣きやみにくい「育てにくい子」、新奇な刺激に対して興味を持って近づいていくというよりも気後れして後ずさり、新しい環境に慣れるのに時間のかかる「気後れする子」です。もちろんこのような典型にあてはまらない子どももたくさんいます。こうした子どもの個性はその子どもが元々持って生まれてきたものです。
 初めての子どもがいわゆる「育てやすい子」ですと、そう苦労をしなくとも育児がてでます。一方、「育てにくい子」の場合は、子どもの持っている個性がそうさせているのであって、養育にあたる者(多くは母親)の対応のまずさのせいではないのですが、それを養育者のせいにして考えると育児がつらいものになってしまうことがあります。そうでなくともなかなか寝てくれないことで養育者は疲れているのに、「この子がよく泣くのは私の育児のやり方がまずいからだ」と思うとよい方向には向かっていきません。こういうタイプの子と思い、おおらかに対応することが大切です。「気後れする子」の場合は新しい環境(人でも物でも場所でも)にその子がなじむまで長い目で見て待ってやることが大切です。このように赤ちゃんにも個性がありますのでそれぞれに応じた対応が必要です。

<幼児期> 基本的な生活習慣の自立
 乳児期は生活のほとんど全般にわたって養育者による手厚い世話が必要であったのですが、幼児期では、社会生活をしていく上で必要とされる食事、睡眠、排泄、着脱衣、清潔等の基本的生活習慣の自立、つまり身の回りの事が自分自身で出来るようになることが大切な課題となってきます。そしてそのような生活習慣はしつけを通して形成されていきます。その年齢としての目安を表2に示しましたので参考にしてください。この生活習慣の自立はしつけをすることだけで身に付いていくのではありません。その前提としては子どもがその行動が出来るようになるための神経系の成熟や運動機能や認知機能の発達が必要です。子どもの発達のレベルに合わせて最適な時期にしつけがなされれば、しつける側(親や養育者)もしつけられる側(子ども)も苦労することなくその生活習慣を身に付けることができます。
 そこで大切なことは子どもが自分でやりたいと思う心(自立心)や自分でやれた喜び(達成感)を育てていくことです。出来るようになっていく途中では、上手く出来ずに失敗することがよくあります。食事や排泄に関してですと、衣服や周囲を汚すこともよくあります。ある行動が出来るようになっていくプロセスとして目くじらを立てずに見守ってやりましょう。食事の時など保育園ではエプロンをつけ、顔や手を拭くおしぼりを用意し、テーブルの下にはシートを敷いて給食を食べています。汚されてもよい環境を作って対応してください。

 表2 基本的な生活習慣の自立の目安

1歳前後 ・コップを自分で持って飲む
・スプーンで食べようとする
2歳前後 ・排尿の予告をする
・一人でパンツを脱ぐ
2歳半前後 ・こぼさないで一人で食べる
・靴を一人で履く
3歳前後 ・上着を自分で脱ぐ
・顔を一人で洗う
・夜のおむつがいらなくなる
・自分でトイレで用をたす 
4歳前後 ・入浴時ある程度自分で体を洗う
・信号を見て道路を渡る 
4歳半前後 ・自分で大便の始末ができる
5歳前後 ・一人で着衣ができる 

 また3・4歳になるとほとんどの子どもが保育園・幼稚園等の集団生活を経験するようになります。集団生活を通して子ども達はルールの理解を深めていきます。子どもの世界も家庭から園生活へ、また近隣社会や地域社会へと広がっていきます。そしてその中で生活をしていくためにはそこで共有されているさまざまなルールがあることを知り、ルールを理解し守ったり従ったりしなくてはいけないことを学んでいきます。
 またルールの理解を通して、セルフコントロール(自己制御)を身につけていきます。セルフコントロールとは、他者からの要求に対応できる力や状況に合わせて行動を変化させる力、社会的に受け入れられる方法で行動する力のことをいいます。大人からの「ダメ!」や「いけません(メッ!)」に対して1歳前後の赤ちゃんでも出しかけた手を引っ込めることができます。幼児期には自分自身の衝動を変化させ、コントロールする力や欲求の満足を遅らせて我慢する力を発達させていきます。スーパーでお菓子を手にとってその場で食べるのではなく、レジを通ってお金を払わないと自分のものにはならないことや、ほしい玩具があってもすぐに買ってもらうことができず誕生日やクリスマスまで待つことができるようになります。もちろんこのためには、「お金を払ってからね」、「誕生日まで待とうね」などという働きかけも必要です。こういう力は子どもが未来を予測できるようになるという時間感覚の発達がその背景にあります。また同時に子ども自身の欲求はいつも叶うものばかりではないことを知ることも大切なことです。あきらめるということや満足できずに残念という気持ちを体験することも重要です。こういう場合は、その事をきちんと言葉で表すことで自分の感情をコントロールできるようになっていくのです。
 この時期、子どもの道徳性の発達も始まります。親などの大人の規範を子どもは自分の中に取り入れていきます。このような道徳的規範を教える(しつける)場合は、ある行為が悪いことであることを子ども自身に分かるようにきちんと伝えることが大切です。「そんなことをするとお巡りさんに叱られますよ」という言い方はある行為が悪いのではなく他者に叱られるからその事をやめるように伝えていることになるので望ましくありません。また「○○ちゃんのこの手が悪いのよね」というような行為の主体である子どもではなく体の一部分を責めるような言い方もよくありません。
 道徳的な規則を子どもにしつける際には、子ども自身が自分の行動をコントロールできるようにすること、自分の行った行為がどういう影響を与えるのかを子どもに考えさせたり理解させたりすること、他者を思いやる気持ちを育てることが大切なことです。

<児童期>
 児童期に入ると子どもにとっては教育の場である学校が大きなウエイトを占めるようになってきます。学校では知識や技能の習得がなされていきます。そのなかで子どもは日常的に成功や失敗の体験を重ね、勤勉に物事に取り組むことや何かを生み出すこと、困難な課題であっても頑張って取り組むことなども体験していきます。
 成功や達成感を味わうことが出来ず、失敗経験ばかりを重ねると子どもは劣等感を感じたり、困難な課題に取り組む前にあきらめてしまったり、自分自身の人間としての価値を低く見てしまったり、困難な課題を出した相手を恨んだりすることもあります。こうした困難に直面してる子どもを支え、関心を寄せ続けることは親としてとても大切なことです。間違っても子どもの劣等感や挫折感をかき立てたり、あざ笑ったりしないようにしましょう。何があっても親は子どもの味方であり、支える存在であることを子どもに伝え続けましょう。
 しつけのポイントについて表3にまとめましたので参考にしてください。

<表3>しつけの重要なポイント
@ 子どもに社会でどのような行為が禁止されているのかを考えさせること。好ましくない行為を我慢するときにはどうしたらよいのかを理解させるようにすること。
A (禁止されている行為に対して)どのような行為が社会に受入れられているのかを子どもに伝えること。
B 善悪の規準の理由について子どもに分かりやすく伝えること。
C 禁止されていたりよくないとされる行為をした時に相手がどのように感じるのかを理解させること。またそういう場合によくないことをした自分自身がどうなるのか(罰を受ける、罪を償う必要があるなど)、 また、その事で家族がどう思うのかについても子どもの理解を深めさせること。

<青年期前期>
 早い子どもは小学校の高学年頃から第二次性徴という急激な身体の変化が表れ始めます。第二次性徴から中学生・高校生の時期を青年前期と呼びます(現代の社会では青年期が長くなってきています)。青年期は古くから「疾風怒濤の時期」とも呼ばれ、不安定な時期とされています。身体的変化に伴い性的な関心が芽生えたり、心理的不安定さがみられたりします。知的発達においては具体的な事象だけではなく抽象的な思考が可能になってくる時期でもあります。自分自身への関心が向き、自身の生き方について考え始める時期でもあります。また同時に自分が他者からどのように見られているのかが気になり始める時期でもあります。
 青年期は親からの自立や独立へ向かう時期(「心理的離乳」と心理学では呼んでいます)でもあります。親よりも友人が重要な存在となり、親と行動を共にするよりも友人を選ぶようになってきます。またいわゆる第二反抗期に入り、親や大人、権威といったものに反発・反抗を示し始める時期です。親や大人への批判や反抗も強くなり、女子では父親に対して嫌悪感を示したりするようになることもあります。
 この時期、子どもの対人関係の中心は、親子関係から友人関係へと移行していきます。親や家族との外出を嫌がり、友人と行動を共にするようになってきます。
 最近は従来から言われてきた上述したような「第二次反抗期にある青年」ではなく、親子関係、特に男女とも「母子関係の密着」の問題が論じられることも増えてきています。つまり「心理的離乳」が行われず、いつまでも親に依存している青年が増加しているとの指摘もあります。

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