東アジアの古代王朝 (1)書かれた古代中国の宗教と政治 
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はじめに


吉池孝一先生

吉池孝一先生

 今から三千数百年くらい前の殷の時代、商ともいいますが、その都があったところ(現在の河南省安陽市)から絵のような文字が刻み込まれた亀の甲羅や牛の肩胛骨などがたくさん出てきています。古代殷王朝の甲骨文字史料です。王様あるいは王様に近い人物が、農業耕作や戦争の成り行きなどについて神々の意志を問うた占いの記録です。私たちはこれにより神と王との関係はどのようであったか、すなわち古代東アジアにおける宗教と政治のありようはどのようであったか、その概略を知ることができます。今日は甲骨文字史料をとおして古代殷王朝をのぞいてみようと思います。
 甲骨文字を扱う場合の出発点といいますか非常にすばらしい本で、陳夢家という方の『殷虚ト辞綜述』というものがあります。また最近、伊藤道治さんの『古代殷王朝の謎』という本の復刻版が出まして、この第一章に甲骨文字を使った殷の時代の神々と王様の話があり、非常に創見に富んだ意見が出てきます。これを中心に据えて『殷虚ト辞綜述』や最近の研究成果も含めて話をさせていただきます。 
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