取り戻した笑顔
息子の昭夫は、太っていることや動きのにぶいことを同級生にからかわれていたようです。家に帰っても暗い表情をしていることが多いので、少しでも元気が出るように何とかできないかと考えていました。ある時、会社の同僚から隣町のラグビースクールのことを聞きました。このスクールの指導の方針は、「子どもの良い所を見つけてほめよう」というもので、指導員が子どもたちの気持ちをよく理解して指導しているということでした。
そこで、昭夫にこのスクールヘの参加を勧めてみました。昭夫は、嫌がることなくその気になって参加しました。隣町までの送り迎えと活動中の付添いは私がすることにしました。練習は、パス、ランニングなどの基本的な動きや、ボールになじむ練習から始まりました。子どもたちは、みんな初めての経験です。ボールのバウンドが予測できず、つかむことで精一杯の様子です。しかし、どの子も楽しそうに目を輝かせて取り組んでいました。
何日かが過ぎてから、付添いの私たちも、指導員の勧めでパスの練習を始めました。楕円ボールのパスは、そう簡単にはいきませんでした。子どもたちにどうしたら良いか聞くと、得意になって親に教えるほほえましい場面もありました。昭夫も私も次第にボールに慣れてきて、親子でパスが楽しめるようなりました。昭夫の表情に笑顔が見られるようになってきたのもこのころからでした。
そしてある日、昭夫は練習試合に出場させてもらえました。相手のパスミスで転がるボールに飛びつき、拾い上げて突進しました。味方が飛び上がって大歓声を上げました。興奮が覚めやらない試合直後、指導員の先生は、みんなの前で昭夫のプレイをほめてくれました。昭夫は、はにかみながらうれしそうにしていました。そんな昭夫を見て、私も「お前はやればできるじゃないか。今日はすごかったな」と、自然に声をかけました。それ以来、昭夫の笑顔は私の喜びにもなっています。