
バルザックはフランスだけでなく、世界的にもっとも有名な小説家の一人です。1799年、フランス革命の10年後に生まれ、1850年に亡くなっています。バルザックが自分の小説に描いているのは、1817年頃から1840年頃、フランスの歴史では、王政復古の時代に当たります。当時、貴族は力を失ってきており、実権を持ち始めていたのは、商人や企業、いわゆるフランス語でいうブルジョワでした。産業革命が進み、最初のうちは商業資本しかなかったのが、金融資本ができ、銀行が力をつけていった。バルザックが小説に描いたのは、そのような時代です。
バルザックは高等学校を卒業すると、父親の勧めで大学の法学部に入学し、同時に法律事務所で見習を始めます。しかしバルザックは、文学者になりたいという望みを押さえきれず、20歳の頃から小説を書き始めます。最初は名前を隠して貸し本屋向けの本を、友人たちと一緒に書いていたのですが、20代のときに印刷業と出版業、さらには活字製造業に手を出して、経営に失敗し、大変な借金を作ります。そこで28歳のときから今度は本名で小説を書き始めます。そして40歳を過ぎた頃から、自分が本名で書いた作品を、『人間喜劇』というシリーズにまとめていくことにしました。『人間喜劇』には、短編、長編合わせて89の小説が含まれています。登場人物の数は多すぎて、数え切れないんですけど、2000人以上であろうとされています。それからもう一つ、バルザックの小説では、ある登場人物が別の小説にもまた登場するのです。ある登場人物がある小説では端役で出ていたのが、別の小説では主役で活躍している、ということがあります。これを「人物の再登場」と呼びます。これも勘定するのが大変なんですけど、「254人の人物が、2つ以上の作品に再登場している」とある本に書いてあります。この技法で、『人間喜劇』という作品群は有機的につながっているのです。