
●日本人は英語スピーカーとしてのアイデンティティーを確立できるか?
日本人が英語を使う機会がもっと増えてきたら、ジャパニーズイングリッシュがもっと認知され、ジャパニーズイングリッシュ・スピーカーとしてのアイデンティティーもできてくるのではないかと思います。ジャパニーズイングリッシュは、今はどちらかというと否定的な意味合いで使われていますが、それに対してシンガポールの英語は常用語として使われているので、イギリス人の英語でもなくアメリカ人の英語でもない、自分たちの話す英語としてシンガポールの人に非常に愛着を持たれています。私たちは英語をそれほど使っていないので、愛着の持ちようもないのです。
国際センターにある国連の開発センターに、ベルギーからインターンとして大学院生が来ており、その人をホームステイで受け入れている人の話を最近聞きました。ベルギーの院生が日本に来て驚いたのは、日本人は英語が全然話せないと聞いていたが、開発センターで会う日本人はみんな自分よりもすごく英語ができることだと。このように、実際に英語を使って活躍している人もかなりいるのです。
●日本人の英語が世界一
今日の私の話は楽観的に終えたいと思います。20近くの国籍の300人以上の人が働いている日本企業の欧州統括本社がアムステルダムにあり、そこにお勤めの日本人の吉本卓郎さんが、朝日新聞の「地球通信」というコラムに書いていた話を紹介します。
吉本さんは親しくなった同僚に必ずする質問があり、イギリス人の同僚にもきいたそうです。世界で最も使われている言葉は何かと。イギリス人はためらわず英語と答えると、ノーと答えます。相手は少し考えて、中国語、スペイン語、フランス語と。全部違うと言うと、果てはヒンズー語などと言うのですが、結局ギブアップします。そこで、吉本さんは正解を教えてあげるのです。統計によると、世界で一番使われているのはブロークンイングリッシュだと。これはノンネイティブスピーカーズ・イングリッシュと言い換えてもいいと思います。そして、戸惑った表情になるイギリス人に「ブロークンイングリッシュとは日本人が使っているような英語のことで、あなたが話しているのは英国のローカルなイングリッシュだから、あなたもインターナショナルなイングリッシュを使った方がいい」と吉本さんが言うと、機知に富んだ英国人はにっと笑って、coffeeと言う代わりにホットコーヒーと言ってくれるそうです。
その吉本さんがアイルランドに出張し、ダブリンのホテルでチェックインをしたところ、一団のアメリカ人観光客がやってきて、ロビーで騒がしくしているのです。すると、そのアメリカ人の1人に、「日本の方ですか。私にはアイリッシュの英語がわからないので、通訳してもらえませんか」と言われたそうです。今度はフロントのアイルランド人が吉本さんを見て、「助けてくださいませんか、自分にはこのヤンキーたちが何を言っているのか全然わからないのです」と。吉本さんはこのコラムを、日本人の英語は最もインターナショナルだから、もっと自信と誇りを持っていいのではないかと結んでいます。
母語話者の英語でも地域的にさまざまで、必ずしもみんなが通じているわけではないのです。日本国内にも方言があり、私達が日本人の話す日本語が全部わかるとは言えないように、アイルランドで話されている英語がアメリカ人には難しいということはあり得るのです。私も初めてイギリスに行ったとき、いろいろな方言が話されており、モデルとして学んだ標準的な英語とは随分違い、英語がわからなかった経験があります。アメリカ人にも難しいかもしれません。
母語として英語を使う人たちも、自分たちのローカルな英語だけではなく、もっとインターナショナルな英語も学ぶ必要があると主張している人もいます。私たち日本人はネイティブスピーカーのように話す必要はなく、もっと自信と誇りを持って、相手がだれであれ、自分たちが伝えたいことをわかってもらえるように、コミュニケーションをしていく必要があるということです。