@虐待問題に対応する専門スタッフとしての人的問題と児童虐待の早期発見と早期対応について
児童虐待に対しては初期対応、解明、相談等についていろいろと問題が指摘されている。最近の厚生労働省の調査によると、特に、相談や通報があったときに組織として対応できていない相談所が、全国に174ある中で2割近くある。
これらの問題を指摘する前に児童相談所職員の専門性を重視するならば、慢性的な人員不足の解消と頻繁な人事異動を制限することが必要である。児童相談所は公務員なので何年かしたら移動がある。専門性を持ちながら行政職で採用されているというのが、まだ6割強ある。大阪府等は福祉職で採用されているが、名古屋市も愛知県もまだまだ福祉職ではない。
そういう流れの中で意識は変っていく可能性はあるが、専門性を持っていないというために頻繁な人事異動が行われている。職員が本当に専門性をつけた頃に替わってしまう、という問題。
同時に児童相談所の職員が少なすぎる。一人が100ケース以上担当しているという状況が現実にある。それを消化するだけで精一杯。そこに又、虐待の通告があったら他の仕事をストップしても飛び出さなければならないという問題がある。
それを専従でしている県もある。三重県は専従職員が4人いる。中央と北勢相談所に2人づつ虐待専門の職員を配置して、その専門職員が動く。大阪府もそうである。東京都もそういう状況を作っている。愛知県や名古屋市はそうではない。専門職員を置く余裕がないということだろう。そこで、担当の職員が動かざるを得ない。
こういう問題をきちんと整備していかないと、複雑な虐待問題に対処できるのだろうか、ということになる。
都道府県指定都市の児童福祉司のいる自治体の採用職ということで統計を取ったものがあります。福祉職で採用が12、事務職で採用が21、両方採用が9の自治体となっている。平均移動年数を見てみると、3年で移動が15、3年から5年で10の自治体である。大体3年から5年でほとんどの自治体が人事異動で替わってしまうという現実がある。
頻繁な人事異動とか、一般行政事務からの突然の移動がある。専門性と相矛盾することが行われていることが、果たして専門職といわれている児童相談所の職員として良いのか。児童相談所の指針によると、児童相談所の専門性が必要とされる内容が書かれている。法的にはそういうことになっていないけれども、人口50万人に最低1ヶ所程度は必要だとうたわれている。現実には174ヶ所では当然足らない。補足するために児童福祉法の改正で、家庭支援センターが児童福祉施設に隣接、あるいは併設して作られている。児童相談所の相談のフォローをするために800万円位の予算で正規職員一人と非常職員等が配置された体制で地域における相談にあたっている。
今、福祉事務所に1000ヶ所位児童家庭相談所があり、同じような相談内容で競合する部分もあるように見受ける。うがった見方をすると、24時間児童福祉施設は稼動しているので、その職員がいなくても児童福祉施設の職員が対応ができるということで、そこに併設されたのではないか。始めの頃は過疎地とか児童相談所の届かないところに置くといわれていたけれど、実際は町の中に設置されているところが多いように感じる。
今年度で50ヶ所くらいになっていると思います。家庭支援センターは専門職を置いていない。そのために子育ての専門的な問題は、児童相談所に橋渡しとなる。現状を考えると児童相談所を増やすことが必要であると思います。
A地域におけるケアシステム作りについて
乳幼児の虐待の問題の発見率が一番高いのは保健所である。児童相談所が中心になって、保健所の保健婦さんが最近福祉現場と連携をとるようになってきました。保健婦さんは、今までどうしても医療関係の方に偏っていた。それが、保健婦さん達も参加したケアシステムが作られるようになった。
虐待の問題やいろんな問題がでてくると、児童相談所が中心になって地域の方達と子育てをしていく。その中で一番ネットワークの中に入っていないのは、学校の教師である。忙しいのか、どうしても地域の中には入り込めていない。学校のこと、他人の子どものことには一生懸命にはなるけれども、地域にはなかなか入って来れない。仕事上大変であるが、一緒に考えることが今必要とされてきている。そういう問題を今後どう考えていくのか。
B家庭で対応できない児童に対するための児童福祉施設等の積極的活用について
母子家庭の場合は母子生活支援施設が利用できる。一応子どもが18歳までとなっているが、延長で20歳になるまで利用できることになっている。
ところが父子家庭に関しては、福祉生活支援施設は無い。そのため父子に対しては、乳児院とか児童養護施設に子どもを預けておいて、お父さんが帰ったら連れに行き、施設の近くにアパート等を借りてそこで生活する。遅くなるときには、お風呂や勉強を見てもらう。夜勤の時にはショートステイで施設を利用して、次の日に子どもを連れに来るという。乳児施設や児童養護施設を利用した形での対処の仕方を取り入れているところが増えつつある。
施設はどちらかというと措置児童として、今まではみてきましたが、私的契約でみていく場合もどんどん増えてくる。夜だけ面倒みよう。2、3日あるいは1週間まで預かって面倒みよう。というショートステイやトワイライトステイの取り組みがやられてきています。そういう風に、児童施設が地域の中でもっと積極的に活用されていってもいいと思う。まだまだ十分にそれが機能していない。一部の施設はやっているけれども、そうでない施設は十分でない。これからの児童福祉施設における役割とは、こういう事があるのではないか。
開かれた施設とはそこから始まるのであって、イベントだけの集まりではもうだめである。盆踊りとか野球大会とか、運動場が広いから借りるとかいうだけではなく、子育てで悩んでいる人達の相談をする。と同時に、その施設を共有できる。必要なときには利用し、その代わり食事代とかの利用代金をきちんと払っていくというシステム。私的契約でそのシステムをきちんと作っていくのが、今後課せられた課題ともいえる。
国についての問題は時間の問題で省くが、児童虐待を含めて非常に専門性を要求される福祉の職員について、現場に採用されていたのは、従来は圧倒的に2年制保育士である。これからは4年制保育士の養成が急務である。今までは2年制保育士で良かったが、これだけの専門性を要求されているならば、4年間の中で現場で通用する専門職を持った職員が採用されて、現場へ入るということが必要となってくると思います。
C国の教育、子育て対策の抜本的見直しについて
教育と福祉というのは統一すべきであると言われている。どういう形で結びついていくのが良いのか、というのは議論しなければならない。しかし、統一すべきだろうけれども現実は無理だと、思います。
今の日本の教育は、競争原理が優先されているような教育のシステムである。福祉というのは、共に生きていくというか弱者を援助していく立場である。福祉と教育との格差は依然としてある。教育の競争原理の中で福祉というのは結びつかないのではないかはと思う。教育が福祉に近づいていかないと、変っていかないと思います。福祉の立場から見て感じることは、教育はもっと変っていかなければいけないと思います。教育・子育て対策の抜本的見直しが必要になっていくのではないかなと思います。