児童虐待と子どもの権利擁護 
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事例を通した児童虐待と現行法の問題点

 ある事例を紹介したい。この事例は5月4日未明に、小学校に入学したばかりのA子が自宅のベッドで死んでいるのが見つかる。死因は脳内出血で、警察は折檻が原因として父親を傷害致死の疑いで逮捕した。A子は生まれてから施設でほとんど暮していたが、4月初めに家庭に引き取られた。しかし、小学校に入学手続きをとっただけで、1日も通学をせず、薄幸の生涯を閉じた。事件を聞き警察が駆けつけた時、A子は顔にタオルをかけられパジャマ姿で死んでいた。解剖の結果、死後丸1日経っており、死因は慢性硬膜下血腫で1ヶ月以内におきたと言うことがわかった。
 この事例の経緯は、A子は母親により生後7ヶ月で乳児院に措置され、3歳になって幼児施設へ措置された。小学校入学になるため児童養護施設に変更され、親権者である母親に相談した。すると母親が児童相談所と施設に直接出向き、引き取りは無理であるとの施設側の説得を聞き入れず、母親が強引に引き取ってしまった。A子の家庭は離婚母子家庭で生活保護を受給していたが、離婚したはずの父親が家庭に出入りしていてA子に対して折檻をし、事件を起こすこととなった。父親によれば、4月から2、3回折檻をしており、折檻が死に結びついたようである。
 児童福祉法の28条に「保護者の児童虐待等の場合の措置」というのがある。A子の事件当時には、措置の継続引き取りへの強制力はなかった。しかし、今回成立した児童虐待防止法では、強制力が働くように変わった。今までだと、家庭裁判所で審判が決定されても、親権者が引き取りたいといえば親権が優先され引き渡さざるを得なかったが、今回の改正では、審判で決定されても問題のある親に対しては、児童福祉司の判断で、親が引き取ることが出来なくなったし、面会の禁止をする事も定められている。
 更に、児童虐待防止法27条「都道府県の採るべき措置」では、児童福祉司の意見を聞くということが盛り込まれており、親権の一時停止にあたるのではないか、と思っている。

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